架空のボカロ「重音テト」で騙した側が10年後に騙される話
デスおはぎさんの「電脳少女は歌姫の夢を見るか?」という曲をご存じですか?
この曲は「重音テト」というキャラクターがモチーフになっています。
私は重音テトというキャラクターの誕生のその時を目の当たりにしているのですが、この曲は、私が今の重音テトというキャラクターを知るきっかけの曲になりました。
重音テトは2008年3月30日に立てられた「架空のボーカロイド作ってニコ厨つろうぜww」という2ちゃんねるのスレで生まれた架空のキャラクターです。
2007年8月31日にリリースされた初音ミクが爆発的な人気を見せた、おおよそ7か月後のことです。
スレに集まった人たちによって設定が決まり、4月1日にはニコニコ動画に釣り動画が上げられました。
※この時の釣り素材は重音テト公式サイトにまとめられています
しかしその後、同年3月にリリースされていたUTAUという合成音声技術を使って、重音テトを作ろうという試みが進行しました。
その結果、重音テトは歌えるようになってしまいました。
嘘から出た実とはこのことです。
なんとSEGAおよびクリプトンの音ゲーである「初音ミク -Project DIVA-」のDLCにもなったことがあります。
ちなみに重音テトの元になったキャラクターは、言うまでもなく初音ミクです。
同人やニコニコ動画特有の文化から、ボカロは二次創作にかなり寛容でした。
クリプトン公認のキャラクターにもなり、現在ではクリプトンが重音テトの商用利用窓口になっています。
※クリプトンに権利があるわけではないので誤解なきよう
恐らく重音テトの曲で有名なのは下記の辺りではないかと思います。
そんな中で「電脳少女は歌姫の夢を見るか?」はCAPCOMが作ったCROSS×BEATS(クロスビーツ)という音楽ゲームに収録されていたんですよ。
ここで収録されたのは重音テトバージョンではなく、蛮さんが歌ったものになっています。
(合成音声っぽい声に加工されており、原曲を意識しているのではないかと思います)
同曲は重音テトの音源が原曲です。
当時リアルタイムでスレを見ていましたが、後にどんな盛り上がりがあったかは知らず、同曲を初めて耳にした時点で、私は原曲の存在を知りませんでした。
時は過ぎた2018年、収録先のCROSS×BEATSはサービスを終了してしまいます。
アプリ版とアーケード版がありましたが、両方とも無くなりました。
ゲームの難しさを上げるため、音ゲーはBPMが速い曲が多くなる傾向にあります。
CROSS×BEATSは音楽を中心にとらえた設計になっていて、その傾向が小さなゲームでした。
そのゲームにおいて、音ゲー全体で見てもかなり速めに属するBPM240という、本ゲームにおいては逆に珍しいポジションだったと思います。ボルテでは普通のBPMだけど
最難関の一角であったHesperidesですらBPM200ですからね。
譜面が流れてくる速度を固定できる今どきの音ゲーとは違い、楽曲のBPMによって速度が異なるゲームだったので、その速さはゲーム性にも響いてくるわけです。
MASTER譜面が程よく難しくて曲も好きだったので、たまにプレイしたのを覚えています。
そしてCROSS×BEATSのサービスが終了して、悲しみに暮れながらも懐かしくて同曲を調べました。
そうしたら、なんと検索結果に重音テトが出てくるではありませんか。
「ん!?!??!」
お前いつ歌えるようになってたんだと。
2008年に重音テト誕生を目の当たりにした私は、2018年に10年間の成長した姿を目の当たりにしました。
タイトルと歌詞の意味も知りました。
「今度は嘘じゃない」にグッとくるものがある
元々好きだったこの曲は、実はいつか見た重音テトが歌った曲が元になっていました。
好きが大好きに変わりました。
本当は思い出に浸るだけのはずで、同時に二度とプレイできない事実も突きつけられました。
CROSS×BEATSの音源が原曲でないのは、版権上の扱いの難しさもあったと思います。
この曲が聴けるゲームはCROSS×BEATSだけ。
商業音ゲーには二度と収録されない可能性もあり、「自分だけが聴く曲になるんだろうな」と思いました。
ところが嬉しいことに、同曲は2021年に「CHUNITHM」という音楽ゲームに収録されることになります。
しかも原曲で、です。
重音テトが歌うオリジナル曲の収録は音楽ゲーム初でした。(というか商業初じゃないですかね?)
追記:2012年12月13日にmaimaiに収録された「おちゃめ機能」が初っぽいです。コロナ以降家にいるだけの置物になって基礎体力が落ちたのである日これは良くないと思ってゲーセンにランニングする生活を余儀なくされたのですが、喜々としてmaimaiをプレイしたらおちゃめ機能があって、選曲したら原曲だったので気が付きました。さすSEGA
これもまた、歴史的瞬間の1つです。
重音テトは、00年代のインターネットを象徴するキャラクターの一人だと思います。
二次創作が異様な盛り上がりを見せたボカロ黎明期の中でも特異な存在です。
生まれた経緯から版権的にも空気的にも商業に露出させづらい事情があったため、恐らくマイナーな存在だろうと思われる重音テトですが、個人的には「ずっと電子の海を泳いでいてほしい」という思いがあります。
大手VTuber事務所であるホロライブがアップロードした「おちゃめ機能」など、インターネット上で活動する方たちの影響で、昔の曲が再注目される現象が起こることがあります。
この例であればコンテンツとしては互いに関わりがないのですが、同人文化には異文化交流を受け入れられる土壌があり、これが電子の海を泳ぐということでもあります。
チュウニズムに収録された同曲も、後に同じSEGAの音ゲーである「オンゲキ」に収録されました。
これらのような出来事があると重音テトが生きている証を感じられて、インターネットの単なる1粒でしかない私なんかでも、とても嬉しくなります。
この記事を公開した2023年4月1日は、エイプリルフールであり重音テト15周年の日です。おめテト!!
嘘みたいですね。だから告知があってもガチの嘘の可能性があって困る
これから先も重音テトの姿を見てみたいですよ。
(追記)Synthesizer V化
その15周年で、なんとSynthesizer V化が決定しました。
実は4月1日時点で仄めかしがあったので興奮して記事を書いた経緯があったのですが、告知されたのは4月3日です。
エイプリルフールに告知すると誤解される可能性があったからですかね?
素晴らしい。
Synthesizer Vとは何かというと、2018年頃に登場した、VOCALOIDと同じ歌声合成技術の1つです。
VOCALOIDが2003年頃なので、15年越しに登場している後発の製品ということになりますね。
ちなみに最初の重音テト(この表現がもうね)となった歌声のUTAUの登場は2008年3月です。
2020年12月頃に対応した、AIによる自然な合成が売りです。
日本でもこの辺りからSynthesizer Vが知られるようになりました。
他だと琴葉茜・琴葉葵や弦巻マキや京町セイカバージョンがリリースされていますね。
重音テトは今までUTAUだったので、合成音声感が強かったのです。(ただしそれはそれで良い)
下記にデモ曲がありますが、かなり自然な歌声になっています。
私もデモ曲を聴きましたが、あまりに良かったです。
どうやら私は歴史的な瞬間に3度も立ち会ってしまったようです。
テトさん!!!! ずっとインターネットにいてくれ!!!!