アーティストに入るカラオケ印税にJASRACが必要な理由
作詞家・作曲家などのアーティストは、カラオケから印税を受け取ることができます。
カラオケは著作権使用料を払っており、歌える音楽の著作権の形も時代とともに変わっています。
- 全ての著作権を管理事業者に信託した楽曲
- 一部の著作権だけを管理事業者に信託した楽曲
- 一切の著作権を管理事業者が持たない楽曲(個人や企業が全ての著作権を持つ)
※このパターンはカラオケから印税を受け取れません
管理事業者というのは、JASRACやNexTone(旧JRC・旧イーライセンス)のことです。
そう、管理事業者はJASRACだけではありません。
しかしカラオケで印税を得るには、相変わらずJASRACに信託する必要があります。
具体的には「演奏権」「通信カラオケ」の信託が必要です。
JASRACとは異なる管理事業者を選ぶ自由や管理事業者に信託しないという選択肢もあるのに、なぜこれだけはJASRACである必要があるのでしょうか?
JASRACである必要というのは、法律上はありません。
2001年10月に施行された著作権等管理事業法により、JASRAC以外の管理事業者が参入できるようになったからです。
2001年10月から「著作権等管理事業法」が施行され、著作権等の管理事業は同法の定めに基づいて実施されることになりました。
著作権等管理事業法 JASRAC
この法律は、著作権管理事業への新規事業者の参入を容易にするなど、これまでの仲介業務法(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)のもとでの規制を大幅に緩和するものになっています。
これまで、著作権管理業務を行う場合は、文化庁長官の許可が必要でしたが、この法律では、一定の条件を満たせば管理事業を行える「登録制」となり、使用料規程もこれまでの「認可制」から「届出制」に改めています。
それにも関わらず、カラオケで印税を受け取るには、JASRAC以外の選択肢がありません。
この辺りの事情は管理事業者であるJRC(現NexTone)によって語られています。
――カラオケに関連する著作権管理について、JASRACが新規参入を事実上阻止しているという批判もある。
カラオケも、JASRACが独占して参入阻害しているわけではないと思う。ただ、利用料を徴収するのが難しい。それこそ北は北海道から南は沖縄まで、JASRACが足を使ってカラオケスナックと契約し、JASRACマークを貼ってもらっている。
カラオケスナックで、「このレパートリーを歌ったときはここに分配」と細かく設定するのは現実的ではない。JASRACは冷静に見て、ある種の社会インフラ化しているところがあり、そういう場に新規参入するのは現実的ではない。
JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く(2/3 ページ) - ITmedia NEWS
管理事業者は、カラオケ1店1店に対して契約を行う必要があります。
契約内容は店舗ごとに異なるため、カラオケ事業会社とやり取りを行うだけでは不十分です。
さらに個人で経営している店舗もあります(居酒屋や旅館なども含む)。
日本中に点在する無数のカラオケ店と個別の契約を行うのは、想像を絶する大変さでしょう。
カラオケの使用料を分配することができるのは、歴史と実績と人手があるJASRACだけだったのです。
ただし、近年では状況が変わってきています。
2016年に設立されたNexToneがカラオケの使用料分配に向けて歩みを進めています。
アーティストのコンサート等興行的な使用、全国の飲食店などのカラオケ演奏やBGMの使用が含まれる「演奏権」は、徴収ルールの確立に時間がかかるため、管理を日本音楽著作権協会(JASRAC)に委託し、数年以内の全支分権・利用形態の管理を目指すとした。
イーライセンスとJRCが合弁会社「株式会社NexTone」設立、「JASRACと公平なルールのもと競い合いたい」 | Musicman
しかし2022年でも実現には至っていません。
NexToneの決算報告書の19ページを見る限り、苦戦を強いられているようです。
第2区分のうちJASRACが全国の店舗ごとに個別徴収をおこなっているカラオケ演奏の管理が障壁。
2022年3月期第1四半期決算説明資料
使用実績に応じて徴収・分配をおこなうデジタル管理スキームを関係各所へ提案中。管理体制が整い次第参入予定。
この状況の責任はJASRAC側に問われています。
2009年、放送分野において、利用割合を反映していない著作権使用料(包括使用料)によるJASRACの徴収方法が、他の管理事業者の参入障壁になっているとして、公正取引委員会から、独占禁止法の行政処分である排除措置命令を受けました。この命令は、最高裁の判決を経て、JASRACが公正取引委員会に対する審判請求を取り下げたことにより確定しました。
これらの経緯をふまえて、独占禁止法コンプライアンスの観点で、放送の分野だけでなく、インタラクティブ配信、CDレンタル、コンサート等の分野で、その著作物使用料(包括使用料)に、利用割合を反映する取組を行ってきており、今回その一環として、本年10月から、カラオケの著作物使用料(包括使用料)にも、利用割合を反映することとしました。
2022年10月からカラオケの著作物使用料に「利用割合」を反映します
JASRACの利用割合を反映しない徴収方法が独占禁止法に抵触していたのです。
これを受けて、2022年10月に徴収方法の変更を行っています。
JASRACに信託しなくともカラオケで印税を得られる時代は、ゆっくりと近づいてきています。
はるか昔、JASRACにはフォルスター事業所というライバルがいましたが、1974年末をもって廃業しています。
JASRACの対になる存在として、NexToneには頑張ってほしいですね。
嫌われることの多いJASRACですが、競争が生まれればまた変わるのではないかと思います。