ボカロPたちが戦った20年間のセカイ(弐) 音楽業界と二次創作

意外と知らないボカロ史・第二章。

初音ミクをはじめとしたVOCALOIDは、今や日本で知らない人はいないでしょう。
そこには苦難の歴史もありました。
そんなボカロがセカイに広まるまでのお話です。

現在3記事、全部で10万文字以上あります。
ちなみに文庫本が1冊あたり10万文字くらいらしいです。
(残りはまだ執筆中です。1年くらい前からちまちま書いてたらいつの間にかこの量になっていました)

音楽業界と二次創作

本記事

※執筆中

全部読む方は立派なボカロ好きかもしれません。
もし読んだらTwitterとかでぜひ感想を呟いてください。
(ボカロ関係ないけど音ゲー制作中なので興味があったらついでに@kaede_hrcのフォローお願いします。完成はまだまだ先ですが……)

※この記事には、以下のようなパーツが多くあります。
 これは余談や挿話のようなもので、本題から逸れる話題がある時に設置しています。
 興味があれば読んでみてください。

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目次

お金を稼ぐのは良くないこと?

メルトショックから約半年後、2008年6月22日に「シンデレラ・ロマンス」という楽曲が投稿されました。

  • 幼い乙女であることが伝わってくる、キャッチーな歌詞
  • 前向きで若さと元気さを感じさせる、ハッピーハードコア調の音楽
  • シンデレラの魔法を見立てたような、デフォルメと八頭身が切り替わるイラスト
  • ロマンスの情景が思い浮かぶような、恋愛ゲームを彷彿とさせる映像

分野も出身も異なる4人のアーティストが同じ方向を向いている、合作として完成された作品だと思います。
これを企画した方も、この4人ならば良いものが作れると思ったから集めたのでしょう。

この作品は話題になったのですが、いい意味ではなく、賛否両論の議論を巻き起こす騒動が起きたのです。
そのためシンデレラ・ロマンスという楽曲を知っている場合、この騒動も知っている可能性が高いです。
※「炎上」という言葉はあえて選びません。企業を巻き込んだりしなかったので、客観的に見て規模の大きな騒動ではないからです。
 そのため、"騒がれた"や"荒れた"という表現が適切だと思います

なぜ騒がれたか

主な理由

  • アップロードされた動画がフル音源ではなく、ショート音源だったこと
  • フル音源をCDに収録したこと
  • 動画の説明文がCDの購入に誘導するものだったこと(後日削除された)
  • 作曲家が同人作家ではなく有名なプロ作家だったこと

「宣伝しにきました」という文面とともに、1分52秒のMVとCD購入を誘導する文言が投稿されました。
フル音源はアップロードしないという宣言の上、CDにはフル音源を収録しています。
またクレジットにはプロ作家の名前があり、当時アマチュアの場だったボカロ界隈に衝撃が走りました。

「宣伝しにきました」という文面はある種のネタ的な文面とも解釈できますが、ここだけを切り取ってしまうと確かにあまり良い印象は持てません。

しかし伝え方はともかく、このような宣伝方法は一般的です。なぜ騒がれたのでしょうか?
理由はシンプルです。

ボカロでお金を稼ぐのは良くないことだから。

今の感覚では理解に苦しむかもしれません。
当時のことなので分かりづらいかもしれませんが、ニコニコ大百科を見れば空気感が少し分かります。

この頃は初音ミクを使った営利活動の前例がほとんどありませんでした。
少なくともボカロ曲を使った営利目的の商品は、まだ存在しません。(Project DIVAやプロセカなど)

この頃のボカロ関連の公式商品と言えば「ねんどろいど初音ミク」くらいではないでしょうか。
初音ミクが発売した翌月の2007年9月には制作会社から企画の提案があり、2008年3月に発売というスピード感で商品化したフィギュアです。

騒がれた理由は他にもあります。

その他の理由

  • 「feat.初音ミク」の表記で宣伝していた(後に修正)
  • 「頒布」ではなく「販売」という言葉を使用していた
  • ムービー担当者がCDを出すことを直前まで知らされていなかった(ムービー担当者のブログで後日発覚)

アーティスト名や曲名にキャラクターの名前を使う場合は使用許諾が必要です。
「feat.初音ミク」表記をクリプトンに無断で使用してはなりません。

ユーザーは、自らが生成した合成音声を、商用または非商用を問わず利用することができます。ただし、以下の各号に示す目的または形態で使用する場合は、事前にクリプトンまでお問い合わせください。なお、使用形態によっては、ライセンス料を含め、追加の使用許諾契約をさせていただく場合があります。

(1) 合成音声を用いた商品・役務における表示
「VOCALOID」「ボーカロイド」「VOCALO」「ボカロ」、本製品のタイトル(「初音ミク V4X」または「初音ミク」)、またはその他これらに類する表示(以下「契約表示」といいます)を、合成音声を使用した以下のような商品・役務において記載する場合
(a) 歌手名、アーティスト名、楽器名、その他何らかの形でクレジットが表記され、且つ契約表示が記載されている商品・役務
(b) その包装や宣伝物等一切の宣伝広告行為において、契約表示が記載されている商品・役務
(c) 映像作品のオープニングやエンドロール等に、消費者が認識できる形態で、契約表示がされている商品・役務

初音ミク V4X エンドユーザー使用許諾契約書

また、同人は非営利活動なので、販売という言葉を使ってはなりません。

「販売」は「商品、品物を売ること」を意味します。つまり、利益を上げることが目的です。「頒布」は前述のように無料・有料を問わず、一般に広く配ることを表しますが、「販売」は、有料であり、営利目的であるという点で意味が異なります。

「頒布」の意味とは - 類語や例文・英語表現について解説 | マイナビニュース

ムービー担当者にCDを頒布することを事前に伝えていなかったのも、どういう経緯でそういうコミュニケーションに至ったかはともかく、筋が通らないでしょう。

その他、ニコニコ動画の宣伝禁止規約にも違反していたのではないかと言われています。

「これが騒がれた理由では」そう思ったでしょうか?
しかしこれは補足情報で、騒動の本質ではありません。

本当にニコニコ動画の規約に違反していたのか?

当時は「宣伝禁止」の規約に引っかかっていると騒がれました。
実際のところはどうだったのでしょうか? 利用規約を読んでみましょう。

5 禁止事項

利用者による「ニコニコ」の利用に関して、以下の行為が禁止されています。

・ニコニコ活動ガイドライン第3項及び第4項に掲げる行為又はこれらの行為に準じる行為(コメントの書き込みや動画等の投稿以外の手段を通じて行われる行為を含みます)
・本利用規約の条項に違反する行為
・公職選挙法に抵触する行為
・「ニコニコ」のサーバーに過度の負担を及ぼす行為
・「ニコニコ」の運営を妨害する行為
・児童買春・ポルノ、無修正ビデオ動画のダウンロードサイト等へのリンク掲載
・運営会社の許諾を得ない売買行為、オークション行為、金銭支払やその他の類似行為
・運営会社の許諾を得ない商品の広告、宣伝を目的としたプロフィール内容の公開、その他スパムメール、チェーンメール等の勧誘を目的とする行為
・13歳以上の未成年者が法定代理人(親権者)の同意を得ずに、「ニコニコ」を利用する行為
・運営会社が不適切であると考える行為
・その他上記に準じる行為

ニコニコ利用規約 - ニコニコ

「宣伝目的のプロフィール内容」というのは、ニコニコアカウントのプロフィールのことでしょう。
「その他上記に準じる行為」から、動画そのものにもこれが適用されるという拡大解釈が可能です。

拡大解釈というのは、都合よく解釈することです。
実際に規約を定義する側になると分かるのですが、規約を定義した時点では具体的にどういう問題が起こるかの想定が非常に難しいので、あえて明確には書かないでおきながらも、実際に問題が起きた時にはそれを引用をすることがあります。

しかし明確な記載がないため、特に非営利の場合にこの禁止事項に抵触するかは微妙です。

例として、2009年にこの規約を理由に削除された動画はあります。
発売前のゲームの実況動画をニコニコ動画にアップロードした例でした。

「まず、ITmedia様が書かれた記事にもありましたが、記事内で“公認実況プレイ動画”という表現があり、これがマーベラスエンターテイメント様や開発者の“公認”ではなく、ニコニコ動画の“公認”と捉えられてしまう可能性を懸念しました。また基本的にニコニコ動画では利用規約により“承諾を得ていない中での営利目的での利用は禁止”とさせていただいており、現在の露出形態ですと、この文言に抵触していますという旨も合わせて(マーベラスエンターテイメント側に)お伝えいたしました」(ドワンゴ ニコニコ事業本部 アライアンス事業部)

 なるほど。「ニコニコ動画」には企業向けに「ニコニコチャンネル」という枠が別途用意されており、企業がプロモーションなどの目的で動画をアップロードする場合はそちらを利用してほしい、ということらしい。

 また同じ理由から、「ニコニコ動画」側が実況プレイ動画や、宣伝目的での動画のアップロードを「公認」したと受け取られては困る、というのも「削除要請」に至った大きな理由のひとつとしてあったようです。

実況? 宣伝? 「ディシプリン」実況プレイ動画が、「ニコニコ動画」から「zoome」へと“お引っ越し”したワケ:日々是遊戯(1/2 ページ) - ねとらぼ

 しかし、そうなると今後への課題として残るのが、他の実況プレイ動画はどうなのか、例えば発売後ならよかったのか、どこまでなら宣伝と見なされないのかといった“線引き”の問題です。このあたり、「ニコニコ動画」ではどのように見ているのでしょうか。

「弊社といたしましては、無償での宣伝目的での利用をすべて不可とするつもりなはく、盛り上がっていくようであれば、場としては使っていただいても構わないと思っております。弊社からマーベラス様に連絡をさしあげたタイミングでは、投稿の詳しい状況などは存じ上げておらず、その後、本記事がマーベラス様による出稿ではなく、ユーザー的視点の強い展開というご説明をいただいたため、現時点では、宣伝目的か否かかの線引きの判断対象からは外す方向となっております。」(ドワンゴ ニコニコ事業本部 アライアンス事業部)

実況? 宣伝? 「ディシプリン」実況プレイ動画が、「ニコニコ動画」から「zoome」へと“お引っ越し”したワケ:日々是遊戯(1/2 ページ) - ねとらぼ

具体的には、マーベラスエンターテイメント社が作った発売前のゲームを、同会社の開発者と実況野郎B-TEAMさんが実況した動画です。
これは良い意味で話題になりました。

ところが、

  • 既に企業向けの宣伝方法が別途用意されていること
  • 話題になった結果、インターネット上にニコニコ動画がこれを公認したかのような表現が出回ったこと

上記の理由から削除の対象となりました。
※ただしニコニコ動画側の詳細な確認の結果、本動画は宣伝目的の動画ではないという結論に至っています

後のニコニコ動画側の声明を読む限りでも、本件は企業向けの対応であることが分かります。

・ 宣伝目的で企業が動画を投稿する事は、原則自由にします。
・ 継続して利用される場合や、大量の動画を投稿する場合は、公式チャンネルを利用されることをご推奨致します。
・ CM、パッケージなどでニコニコ動画の名称を使用する場合は別途ご相談下さい。
・ ニコニコ動画公認と誤解を与えるような表現を許可なく行う事は禁止します。
・ アフィリエイト目的など、おもしろくないと我々が判断した動画は別途禁止させていただくことがございます。

宣伝目的の動画利用について‐ニコニコインフォ

非営利の場合は言及を避けていますが、「無償での宣伝目的での利用をすべて不可とするつもりなはく、盛り上がっていくようであれば、場としては使っていただいても構わないと思っております。」という一文から、ニコニコ動画の方針が見て取れるでしょう。

では結局のところ、規約に違反していたのか?
これは「非営利であるか否か」が争点になるでしょう。

私見でよければ「非営利である」と断言しますが、今となってはその答えが出ることはありません。
結果として罰せられなかったので違反していなかったのではないか、としか言いようがないからです。

では論点を変えてみましょう。
それは糾弾するべきでしょうか?

様々な情報が積み重なることで、ニコニコユーザーはある疑念を抱きました。
「お金を稼ぐためにボカロを利用したのではないか」

  • 仮にお金稼ぎが目的だとして、それの何がいけないのか?
  • 初音ミクでお金稼ぎをしてよいのか?

これは賛否両論で、様々な意見があったことはニコニコ大百科の掲示板のログからも分かります。

特筆すべき問題は、これらの疑念が火種になったことです。

「嫌儲」という思想

この頃のインターネットには、お金稼ぎを嫌う「嫌儲」という思想が根深く身に付いていました。
2000年代後期~2010年代前期のインターネットに生きた人間なら、一度はその思想を見たり触れたりした経験があるでしょう。
※嫌儲は「けんもう」「けんちょ」などと読みます。インターネットで生まれた造語なので正式な読み方はありません

嫌儲というのは、主に無償で生み出されたネット上のコンテンツを営利目的で転用する行為を嫌う思想のことです。
要するに、一般に公開されている文章・絵・技術・文化などを、お金を儲ける目的で使用する行為を嫌う、ということです。

2005~2007年に2ちゃんねるで起きた「第一次ブログ連戦争」でこの思想が広まりました。
2ちゃんねるのスレッドをまとめブログが無断転載し、アフィリエイトで収益を得ていたことが発端です。
ニコニコ動画の源流とも言える2ちゃんねるユーザーがこれに反発していた立場だったのです。

他者の著作物を利用して利益を上げる場合は、著作者に許可を得るのが道理とされます。
ところが匿名掲示板のレスの著作者の特定は困難で、許可を得た上での転載は実質的に不可能です。
これによって引用元を明記しないまとめブログが出現し、元スレの意図が伝わらない編集をされ、さも自身がコンテンツを作り出したかのような振る舞いに嫌悪感を抱く者が多かったことが反発のきっかけになりました。
※Google Adsenseや楽天アフィリエイトは2003年頃にサービスを開始。アフィリエイトが抱える問題が露呈した瞬間でもあります
※とはいえ、有名なコピペの転載などはもはやこの限りでないでしょう

この騒動は一旦沈静化しますが、たびたび再燃する流れを残しました。
やがて思想として定着していきます。

思想が広まると、感情的な側面が強くなっていきました。
「お金は真っ当な手段で稼がなければならない」という思想になり、商業との境目が曖昧で娯楽の意味合いを併せ持つ同人活動では、たびたび利益を得ることに対する批判があります。

これが後に「嫌儲」と呼ばれ、日本のインターネット文化を語る上で欠かせないキーワードになります。

嫌儲という言葉は、実際には「楽して大金を稼ぐ者が嫌い」という文脈でよく使われます。「他人の著作物を無断で使用したサイトの広告でお金を稼ぐのは楽な仕事である」という認知から派生したものと見られます。
対義的な思想は拝金主義です。
しかし嫌儲の真の意味合いは「お金は真っ当な手段で稼がなければならない」ことにあります。
嫌儲が良くない思想であるという目線で見ると歴史を正しく理解できなくなるので、原点に立ち返った書き方をしました。

真っ当な手段、というのが難しいのです。
コンテンツの性質、時代背景、当事者の立場などによって定義が変わってしまうからです。

昔から現代に至るまで「二次創作は日陰の活動である」という認知があります。
当時、二次創作でお金を稼ぐ行為の全てが真っ当な手段ではありませんでした。
それがボカロであってもです。

同人と商業が自然に入り混じる現代では境界線がさらに曖昧になっていることから、現代ではあまり意識していない方が多いかもしれませんが、「同人ゴロ」という言葉は現代でも使われることがあるので、思想としては残り続けていることが分かります。
もっとも二次創作の場合は著作権の問題もありますし、派手にやって他人や団体と軋轢を起こすと版権元に迷惑が掛かり、二次創作が禁止になるなどして文化の存続に係わる可能性があるので、嫌儲的な行動を選択する局面が多く、「この思想が良い・悪い」で判断すべきではありません。

二次被害

当時ですら賛否両論であったため、後世から見れば見れば思うところはあるでしょう。
しかし騒がれた以上、結果論として宣伝方法やコミュニケーションに問題があったことは否めません。

企画担当は同人活動の認識であったこと、ボカロ文化の黎明期であって同人活動の参考例が少ないこと、企画担当者が企画慣れしていたり未成年である可能性も勘案すると、責められるべきではないと個人的には思います。
ちなみにフル音源をアップロードしない理由は「CDの購入者に悪いから」という理由です。

シンデレラ・ロマンスは、企画・作詞・作曲・イラスト・ムービーの各担当5名で生み出した作品です。
企画担当にとって最も不運だったことは、企画以外のメンバーにも怒りの矛先が向いたことです。

特に作曲家は音楽ゲーム界隈で有名で、ニコニコ動画でも知名度の高いアーティストでした。
それが災いして矢面に立つ側となり、誹謗中傷を受けてしまいます。

この問題のこともあり、当初はシンデレラ・ロマンス関連動画だけだったはずの「資本主義P」「シンデレラ・ロマンス問題」「Tatshは現在無職www」などの問題提議、誹謗中傷のためのタグが、Tatshに直接無関係の動画(IIDX関連、全押し関連など)にも付けられる(⇒タグ荒らし)という問題が出てきている。

シンデレラ・ロマンス問題とは (シンデレラロマンスモンダイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

この作曲家は、本件の企画担当より依頼を請けて楽曲を制作した立場です。
2007年にゲーム会社を退社・独立してフリーランスになった経緯があり、偶然にも同年に爆発的な盛り上がりを見せたボカロと出来事が重なり、結果としてこのような依頼を請けたものと思われます。
依頼を遂行しただけなのですが、商業のプロ出身であることから「子どもの遊び場に大人が乗り込んできた」というイメージが先行し、感情を刺激させる結果になりました。

プロ出身ではなかったムービー担当者も批判されました。
騒動後に関係者による説明がなかったため、自身のブログにて事情を話しています。

制作に声を掛けられた当初は、「ニコニコ動画にアップする初音ミク動画を作る」といった事しか聞いていませんでした。
僕個人はニコニコ動画が大好きで、自分でも動画を作って何回かアップしていた事もあります。
もちろんその際には何円もらってムービーを作るだとかそういうのもありませんでした。
「才能の無駄遣い」とか「プロ仕事しろ」とか言われるのが大好きで、それだけで満足だったりしてたわけですね。

今回もそういった流れで、どこにもお金が発生しないのに無駄に豪華なメンバーでいい物を作るといった感じだと思い、僕もがんばっていつも以上にいい動画にしようと心がけて作っていました。
ニコニコユーザーに楽しんで見ていただけるのがすごく楽しみでした。

制作が佳境に入った頃、CDを出すという話を聞き、正直、「え?」という気持ちでした。
過去にニコニコからCD発売の流れがいくつかありましたが、今回の件はそういった流れとは全然違い、疑問も多々ありました。

その辺りをしっかりと確認せずに動画の制作を引き受けてしまった自分も今回の件の一端になっていると思います。
申し訳ございませんでした。

僕個人としては皆様に喜んでいただける動画を心がけて作っていましたがこのような事になってしまい、悲しい気持ちでいっぱいです。

僕も結構前からのニコニコユーザーなので、批判コメントを付けたりしている方の気持ちがとてもよく分かります。
ですが、がんばって作った動画が宣伝動画や自演動画といった目でしか見ていただけないのはほんとに悲しいです。
もし気が向いたら、一度でいいので、お金の件やCDの件を抜きにして動画を見ていただけると嬉しいです。

じゃむじゃむはうす雑記 初音ミク動画 シンデレラ・ロマンスについて

自身にCDの頒布に関して事前に伝えられていなかったことを明かした上で、それよりも騒がれてしまったことを悔やんでおり、お金の件を差し置いても動画を観てほしい、という趣旨を表明しています。

その表明がニコニコユーザーに届くことはありませんでした。

ムービー担当者についての補足

約1か月後の2008年7月27日に投稿された「Liberate~赤い海の夜明け~」のメンバーを見ると、シンデレラ・ロマンスと全く同じメンツになっています。
この楽曲はシンデレラ・ロマンスと同じCDに収録されたため、制作自体は同時進行だったと思われますが、ムービー担当の方のブログでその動画を紹介していることから、企画担当とムービー担当が揉めていたわけではないことが分かります。
つまり、騒ぎを起こしていたのは当人たちではなく周りだったということです。

書くの遅くなっちゃったけども、新作アップされてらっしゃったようですです。
(ニコニコの話題ばっかりなのでニコニコのID持ってない人はごめんなさい><。)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm4101016

何か、歌詞つけてタイトルかっこよく出してーって言われたのでやった感じなんだけども、タイトルだけ動かしてもダサいんじゃね!とか思ってイントロ部分全部動画つけてみることに。

http://jamhouse.blog44.fc2.com/blog-date-200807.html

※ニコニコ動画のIDを持っていない人に対して謝罪を述べているのは、当時のニコニコは会員登録しないと動画を見られなかったため

騒動の着地点と真相の考察

この騒動は着地せず、宙ぶらりん状態でした。
現代の炎上は公式や関係者の表明を求められますが(ケースバイケースではあります)、この時代の騒動は無視する(=荒らしに反応しない)という対応が多く、この騒動でも企画担当者の説明がありませんでした。

「feat.初音ミク」問題も後に対処されています。
個人的には同人活動という解釈であり、関係者間で解決していれば問題はないため、それでシンデレラ・ロマンス問題は解決した認識です。

ここからは私個人による考察です。

ムービー担当者による告白を見る限り、企画担当は最初、CDを出すつもりがなかったのでしょう。
このとき、作曲担当はボカロに関係なく、CDの頒布を検討していたのではないかと思います。

Tatsh Music Collection -I- (2008年/C74)

  • Introduction -Music Crystal-
  • シンデレラ・ロマンス (初音ミク)
  • 虹と風の丘 (初音ミク)
  • デジタリック・ラヴ (初音ミク)
  • Liberate 〜赤い海の夜明け〜 (初音ミク)
  • Lamentation
  • 電脳旅行記
  • strange forest

Tatsh Music Collection -J- (2008年/C75)

  • Introduction -deprived Music Crystal-
  • 翼という名の奇跡 (初音ミク、鏡音リン、MEIKO)
  • Love is Dead -Joker edit- feat. 桜井零士&Yuta
  • Splendid Drive
  • Snow Mirage feat. 葉月ゆら
  • Joker feat. 葉月ゆら
  • INFLUENCE OF DARK
  • 天風

緑色の下線がボカロ曲であり、ボカロオンリーのCDではないことが分かります。
そのため、当初はボカロに関係なく、作曲家本人が企画したCDであった可能性が高いです。
1枚目は独立した後に初めて作った自身のCDなので、不思議ではありません。
1枚目のCDを頒布せず、2枚目を1枚目として頒布する選択肢もあったでしょう。

企画担当から作曲家に制作の話を持ち掛けたのは3月頃であると明かされています。
なお、シンデレラ・ロマンスを投稿したのは6月22日で、1枚目のCDを頒布したのは8月17日です。

Tatsh氏に今回、初音ミクのCDを同人でやってみませんか?と
声をかけたのは今年の3月頃。
さらにインスト曲にも定評のある氏が、未発表のインスト曲があるとのことで
それも詰め合わせたものが今回のCDの収録曲となる予定です。
全8曲、ショートバージョンとカラオケも合わせて、
全16トラック(盛り沢山!?)

シンデレラ・ロマンス問題とは (シンデレラロマンスモンダイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

文面から察するに、企画担当は音楽ゲームに造詣があり、同作曲家をよく知っています。
そのため同作曲家の独立を知り、声を掛けることにしました。

企画担当から声を掛けられた時、作曲家はCDを出す予定があることを企画担当に明かしたのでしょう。
「Liberate 〜赤い海の夜明け〜」についても、後日同じメンツで動画が投稿されていることから、初音ミク関連の楽曲自体が、企画担当より声を掛けてから作られた楽曲である可能性があります。

そして制作が決まった段階で企画担当から全員に声を掛ける最中、企画担当と作曲担当の間では話が進んでおり、最終的に作曲家のCDに収録することが決定となったのでしょう。
企業での業務経験を積んでいた作曲家は、楽曲の詳細な利用方法の取り決めや後で権利関係で問題が起こらないように誰がどのように楽曲の権利を持つかの話などをある程度の期間に渡って行い、楽曲そのものの権利のみが作曲家に帰属することとなり、その際にCD収録の決定が行われたのだと推察します。

  • 本件の作曲家が独立し、CDの制作を始める
  • 本件の企画担当が作曲家の独立を知り、声を掛ける
  • 企画担当の提案を前向きに受け入れ、作曲家はこれをきっかけにボカロ曲の制作を始める
  • 企画担当が他の制作担当を決め、同様に声を掛ける
  • 権利関係の取り決めを作曲家と企画担当間で行う
  • 取り決めを行った結果、制作したボカロ曲の権利が作曲家に帰属し、自身のCDへの収録を決定する
  • 上記の結果を企画担当から他の制作担当に伝える

つまり、5~7にそれなりの期間があったのではないか、ということです。

制作に声を掛けられた当初は、「ニコニコ動画にアップする初音ミク動画を作る」といった事しか聞いていませんでした。

じゃむじゃむはうす雑記 初音ミク動画 シンデレラ・ロマンスについて

ムービー担当によると初めは権利関係の話がなかったので、この話は後から出現したのです。
察するに、企画担当は音楽関係の権利に詳しくなく、声を掛けた後にそういったお話になることを予測していなかったのではないでしょうか。
(制作経験がなかったか、金銭のやり取りが一切発生しない同人制作のみ経験があったのかもしれません)

権利に対して誤解のないように、作曲家と企画担当間の認識合わせを慎重に行ったため、決定事項が他のメンバーに伝わるまでに時間差があったのではないかと思います。
なおこのとき用いられた伝達手段がメールであったのか、口頭であったのかは分かりません。

作曲家が頒布したCDの価格は1,000円であったことから、同人音楽の市場から乖離した価格ではありません。
同人界隈では普通で、プロ基準ならあり得ないほど安いです。赤字の可能性もあるでしょう。

自分がCDを出すと仮定して、CDの原価、コミケの参加費用、交通費などを調べてみてください。
プロ出身の作曲家なら人件費も入れて計算すべきでしょう。
仮に赤字であったとしても、好きであれば実質的に赤字ではありません

恐らくこの企画に参加した4名は誰もお金儲けが目的ではなかっただろうと思います。
もちろん企画担当も同じです。
CDの頒布が騒がれた後であったことを考慮しても、私にはお金儲けが目的であったとうなずかせるに足る根拠がどこにも見つかりません。
「そもそもお金儲けは悪いことじゃない」という気持ちは置いとくとしてもね

宣伝方法について騒がれたのは、CDの宣伝を企画担当が行った際に言葉選びを少し誤ったからでしょう。
本当は、ただそれだけの話だったはずなのです。
作曲家がプロ出身という理由だけで大きく誤解されてしまいました。

ともあれ、後にボカロの商業化が進み、時代が経つにつれて風化したことで語られることもなくなりました。
「そういう時代もあったね」という認知に変わり、今となっては人々の記憶から消えた騒動です。

なぜ周りはそれほどまで過敏に反応してしまったのでしょうか?
それは後ほど解説します。

2ちゃんねるが検索でなかなか出てこないのはなぜ?

Yahoo!ジオシティーズをはじめとした個人サイト・ブログサービスの閉鎖等の影響からか、調べても昔の情報はあまり出てきません。
この記事すべての情報について、全体的にそうですが、元ソースを探すのが非常に難しかったです。

2ちゃんねるも検索でほとんど出てきませんでした。
今の方には信じられないかもしれませんが、昔はGoogleで検索すると結構出てきていたんですよ。
1ページ目にいなくても、2ページ目にはあったことが多かった記憶があります。

2ちゃんねるって2014年に5ちゃんねるに変わっているんですよね。
管理権限紛争というゴタゴタがあったやつです。

推測ですが、この影響で2ch.netから5ch.netに正しく移行できなかったのだと思います。
2ch.netの個別のスレッドには301リダイレクトが張られておらず、5ch.netに遷移しないことから、検索エンジンの評価の引継ぎに失敗し、検索に出てこなくなったのでしょう。

私はリアルタイムで騒動の様子をROM専(死語?)で見ていた身でしたが、個人的にはかなり強く印象に残ったため、当時を思い出して調べながらこれを書いています。

過去ログ検索も駆使して当時の2ちゃんねるのスレを見つけたので、興味がある方はどうぞ。
アクセスが多いと制限がかかって見られなくなるので、あえて直リンクはしません。
VOCALOID 議論隔離スレ part66 https://pc11.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1214198999/
VOCALOID 議論隔離スレ part67 https://pc11.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1214235241/
VOCALOID 議論隔離スレ part68 https://pc11.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1214284427/
VOCALOID 議論隔離スレ part69 https://pc11.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1214320166/

なお、当時の2ちゃんねるのユーザーとニコニコ動画のユーザーには距離があります。
ニコニコ動画のユーザーに対して「ニコ厨」という蔑称を使っていることがその証左です。

なぜニコニコ動画の源流であるはずの2ちゃんねるに蔑まれているかというと、ニコニコ動画はもはや2ちゃんねるの文化のそれとはかけ離れた独自の文化を築き、全く異なるユーザー層になっていたからです。
TwitterとInstagramのユーザー層が異なる感覚と似たようなものです。
そのためニコニコ動画のユーザーに比べると温度差があり、一歩引いた目線でこの騒動を語っています。

この時代の歴史的観点

2008年頃のボカロの商業利用は、ユーザーからは受け入れられなかったということです。

シンデレラ・ロマンスはCDを購入を前提とした印象を受けるため、確かに商業色が強かったかもしれません。
恐らく企画担当が作曲担当に忖度した結果なのでしょう。
もしも企画担当が同作曲家のファンであったならば、それも納得できます。多分俺でもそうする。何なら限界化する

趣味が高じて発展したニコニコ動画の文化を鑑みると、初音ミクというコンテンツに対するリスペクトがあったか否かが最も重要なポイントで、ユーザーがそれを感じられなかったのが真の原因だと思います。

ちなみに他のボカロPはどうだったかというと、普通にCDを出しています。
ただしこちらはビジネスっぽさがなく、例えば「CDにフル音源が収録されているが、ニコニコ動画でもフル音源を聴ける」というものです。
それもあまりいい目では見られませんでしたが、商業色が強くなければ騒がれはしなかったのです。

本件が特段騒がれた理由は、作曲担当のプロとしての知名度が高く、さらにボカロPではなかったからでしょう。
「初音ミクのマスター」ではないので、同志かどうかが分からなかったのです。
この時代はボカロPからプロになるのがとても大変なことだったのですが、プロからボカロPになるのも別な意味で大変なことだったのです。

色々と問題はあったのかもしれませんが、このようなやり方は、Web上で漫画をチラ見せして「気になったら買ってね」という真っ当なやり方なはずです。
それでも、この時代のボカロはそういう空気ではありませんでした。

「動画をアップロードして収益を得る」発想がない時代

YouTuberという職業がまだ存在していない時代なので、動画をアップロードして収益を得られるという意識も一般的ではありません。
YouTubeの収益化は、2007年5月に一部のユーザーに対する招待制のプログラムとして提供され、2011年4月から一般ユーザーに解放されています。

ニコニコ動画のクリエイター奨励プログラムが始まったのも2011年12月です。
動画の投稿者に収益が入る仕組みが登場するのはもう少し先の時代です。

昔の話ですが、私もゲームプレイ動画をアップロードしていたことがあります。
色々あって消してしまいましたが、主にスマブラとピクミンの動画を上げていました。

当時はゲーム機に録画機能がなくて、キャプチャーボードも所持していなかったので、家に誰もいない時に(声が入らないように)デジカメで直撮りしてPCに取り込んで、Windowsムービーメーカーで編集していました。
PCはCeleron M 430という貧弱なCPUだったので寝て起きてもエンコードが終わってないし、ADSL回線で上り速度が遅かったのでYouTubeのアップロードでも時間がかかって、ようやく終わったと思ったら原因不明のエラーが出ていてやり直しになったこともありました。
懐かしい。

そんな私も2008~2009年頃にYouTubeからメールで招待されましたが、著作権をクリアした動画でなければ収益化できないので、メールを無視したことがあります。
ゲーム関連動画で一個人が企業から利用許諾を得る手段は存在しなかったからです。
そもそもそういう目的で動画を上げていませんでしたし、メールでそういう制度があることを初めて知りました。

なぜ招待されたのかは不明ですが、恐らく総再生回数などで機械的に選別していたのでしょう。
招待後には審査があったので、応じていても収益化はできなかったのではないかと思います。

アイドルマスター界隈の同時期の騒動

シンデレラ・ロマンス問題と同時期に、ボカロと東方Projectに並んでニコニコ三大ジャンルと言われたアイドルマスター(アイマス)でも「ツンデレカルタ騒動」が起きています。
シンデレラ・ロマンス問題とは異なる騒動ですが、こちらも炎上という規模ではない範囲で騒がれました。

簡単に説明すると、有名声優が声を当てたカルタ商品の関係者に、ニコニコ動画にアイマスMADを投稿しているユーザーがいたことが問題になったのです。
その中にはカルタのイラストレーターなどもいたのですが、著作権的にグレーであるアイマスMAD動画の制作者が商業側のアイマスに露出するのは良くないこととされ、荒れました。

アイマスはボカロや東方Projectと明確に異なる点があります。
一次創作者が企業、かつ、一次創作者がコンテンツの供給をしていることです。

そのため、同人界隈においても少し異なる空気感を持っています。
アイマスの版権を持つ大企業(バンダイナムコエンターテインメント)ならやろうと思えば二次創作を取り締まれますから、そういった環境では版権元を刺激しないように、ユーザーによる自治が強力になる傾向があります。

つまり、アイマス二次創作文化がなくなる危機感から来る騒動だったのではないかと思います。
その背景には同人と商業に大きな壁があり、同人の商業露出が一般的ではなかったことが挙げられます。

二次創作で利益を得る活動に大きな抵抗があることが分かりました。
なぜこれほどまで「同人の商業アレルギー」があったのでしょうか?

嫌儲思想が広まっていたことが理由ではあります。
しかしボカロ文化にはもう1つ、商業利用が受け入れられなかった理由があるのです。
キーワードは「著作権」。

音楽業界と同人音楽

2007年末から、同人音楽がカラオケに収録されるようになりました。

ボカロの歴史上初のカラオケ収録は、2007年12月8日の「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」です。
続いて12月15日に「恋スルVOC@LOID」も収録されました。2007年12月の配信はこの2曲のみです。
この2曲はニコニコ動画への投稿も早いですし、氏のフットワークの軽さが伺い知れます

JOYSOUNDの特集ページを見る限り、2009年辺りから収録楽曲が急速に増えたと思われます。

※このページに載っているのは一部の楽曲のみです

これにより一般層にもボカロ曲を歌う文化が浸透しました。
JOYSOUNDが出した2010年のカラオケランキングTOP10には、なんとボカロ曲が5曲も入っています。

順位楽曲名アーティスト名ボカロ曲?
1位残酷な天使のテーゼ高橋洋子
2位キセキGReeeeN
3位春夏秋冬Hilcrhyme
4位magnetminato(流星P) feat.初音ミク、巡音ルカYes
5位ハナミズキ一青窈
6位裏表ラバーズwowaka feat.初音ミクYes
7位メルトsupercellYes
8位炉心融解iroha(sasaki) feat.鏡音リンYes
9位Butterfly木村カエラ
10位ワールドイズマインsupercellYes
2010年代(平成22年〜30年)|平成カラオケ年表 | JOYSOUND.comより引用

ボカロ以外の全ての音楽を抑えてのランクインですから、驚くべきことです。
ボカロPとしてもたくさんの人に歌われるのは嬉しいでしょう。

音楽活動の収入源が1つ増えたことも喜ばしいです。
カラオケで誰かが歌うと、JASRACを通してその楽曲の著作権者に報酬が支払われます。

カラオケはお金を払って歌うことができる施設です。
私たちが支払ったお金が巡り巡って、作詞家や作曲家などのアーティストに届く仕組みになっています。

一般的には。

実はこの頃、ボカロ曲で得たカラオケの利益はボカロPに入っていませんでした。

JASRACとカラオケと二次創作

カラオケで収益を得るには、JASRACに楽曲を信託する必要があります。
楽曲を信託するというのは、JASRAC管理楽曲になるということです。

しかしJASRACに楽曲を信託すると、VOCALOIDの二次創作ができなくなるという問題がありました。

VOCALOIDはニコニコ動画特有の風土で発展したコンテンツであり、二次創作によって成り立っています。
歌ってみた動画やMAD動画にもたくさんボカロ曲が使われていました。
中でも「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」の人気が最も高く、二次創作も盛り上がっていました。

初音ミク関連で最も人気の高い動画は「みくみくにしてあげる」で、ニコニコ動画では3月16日時点で389万回以上再生されている。「みくみくにしてあげる」は、鹿児島弁や熊本弁などのご当地バージョンも登場するなど、派生コンテンツが数多く生まれているという。また、あるユーザーが楽曲を作ると、それに触発されたユーザーが楽曲に合わせたイメージ画像を制作するなど、ユーザー同士の協業が進んでいることも特徴であるとした。

「初音ミクの著作権ってどうなの?」販売元のクリプトン伊藤社長が講演

しかし、これらはほとんどが無断で行われていたことです。
ある種の無法地帯でもあったため、ユーザー同士に正しくコミュニケーションを取ってもらい、二次創作文化を促進させるため、クリプトンは2007年12月に「ピアプロ」というサイトをオープンしました。

このサイトでは、自身のVOCALOID二次創作作品に利用条件を定めた上で公開できます。
YouTubeやニコニコ動画が公開や発表の場ならば、ピアプロは配布や提供のための場なのです。

ボカロ曲を利用する側としては、利用条件を見ればどのように使ってよいかが分かり、ボカロPに問い合わせをする手間がなくなります。
ボカロPとしては、数多の問い合わせを受けることなく、楽曲の利用を促進させることができます。

そしてこのピアプロが使われたことから、ボカロPには自由な利用を推奨してたくさんの人に楽しんでもらいたいという思いがあったのです。

話をカラオケに戻します。
JASRACに楽曲を信託するということは、著作権をJASRACにすべて管理してもらうことになります。
無断利用は盗作扱いで例外なくNGで、自由な利用を推奨することはできません。

  • MAD動画
  • 歌ってみた(カバー)
  • BGM
  • 歌詞の記載

これらにボカロPが「いいよ」と言ってもJASRACが「ダメ」と言えばダメになります。
※管理事業者というのはそういうものです。何百万といる個人の言い分を聞いていたら管理できません
※作家本人も対象です。例外はありますが、仮に作曲家本人が「歌ってみた」をアップロードしたとしてもダメです

初めは問題になっていませんでした。
まるで終わらない祭りのような盛り上がりのまま今に至っていたからです。
ユーザーもボカロPも知らなかったか、見て見ぬふりをしていたのでしょう。

問題はボカロのみに留まらない

ボカロと同時期に大きな発展を遂げた同人音楽があります。
東方アレンジです。
東方Projectはボカロやアイマスと同様にニコニコ御三家の一つとして数えられたことから、東方アレンジもまたニコニコ動画内で盛り上がった一大ジャンルでした。

東方アレンジの歴史上初のカラオケ収録は、DAMで2007年10月3日に配信された「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」です。同人音楽はJOYSOUNDが主流なので意外でした。
JOYSOUNDでは2007年11月4日に配信された「レザマリでもつらくないっ!」が初で、続いて11月11日の「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」です。2007年11月の配信はこの2曲のみ。

「レザマリでもつらくないっ!」のビートまりおさんのコメント

「レザマリでもつらくないっ!」については当時のビートまりおさんのブログに記事があります。

2007年10月12日(Fri) 14:21
「レザマリでもつらくないっ!」のカラオケ配信について。

「レザマリでもつらくないっ!」がJOYSOUNDで配信されることになりました。

けっこー前から決まっていたのですがなんやかんやでこのタイミングに。
今まで言うに言えなくて勝手にヤキモキしていた俺ですこんにちわ。

ちなみに自分はZUNさんに直接お会いして許可を頂いてきました。
快く許可を下さったZUNさん、本当にありがとうございました。

同人二次創作楽曲の商業カラオケ配信ということで
皆さん思うところは色々あるかとは思いますが、
歌い手としては自分の歌った曲がカラオケ配信されるのは素直に嬉しいですし、
なによりそれで楽しんでくれる人がいるなら本望ってなもんで。

11月8日配信開始予定とのことですので是非どうぞ。
当然俺も歌いにいくよ。ひとりで。ヒトカラ万歳。

※追記
11月4日配信に変更されたようです。

COOL&CREATEの雑記みたいな感じの。

同人音楽の商業進出に慎重な姿勢を見せていたことが分かります。
原作者であるZUNさんも、この時代に許可を出すことは勇気がいるご決断だったと思います。
私見ですが様々な出来事から、ZUNさんは時流を読むバランス感覚がとても発達している方なのだろうという印象です。

なお同曲はJASRAC管理楽曲ではないため、この曲を歌ってもビートまりおさんにお金は入りません。
この事実は同記事で伝えていませんが、文章を読めばそれに対する答えが分かります。

ボカロと東方アレンジがカラオケに入り出した時期はほとんど同じです。
これは偶然ではありません。

同人音楽のカラオケ採用に関して、JOYSOUND視点の記事があります。
JOYSOUNDが2006年11月に開始した「リアルタイムリクエスト」に、2007年から多くのニコニコユーザーからリクエストが集まったことがきっかけであることが分かります。

 その後、間もなく通信カラオケのJOYSOUNDに「誰のかも分からない、聴いたこともない曲がリクエストされるようになった」(エクシング 経営企画本部 編成企画部 渉外G グループ長の小林拓人氏)。JOYSOUNDにはユーザーの投票で毎月上位200曲の入曲を決める「リアルタイムリクエスト」という仕組みがあり、そこにボカロ曲が投票され始めたのだ。なにしろアマチュアの曲がカラオケにリクエストされるのは前代未聞。小林氏は「作家を探し出して連絡を取るのも大変だった」と振り返る。

https://web.archive.org/web/20110320100435/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110304/1034733/?P=3

 リアルタイムリクエストは、SNS上でユーザーから「JOYSOUNDで採用してほしい楽曲」の投票を実施し、毎月得票数上位200曲を配信するというもの。現在では、そのうち約50曲がネットの人気曲、またはインディーズアーティストの楽曲となっている。

 同件を担当したエクシング編成制作部の小林拓人さんは「開始当初、ニコニコ動画の存在はまったく知らなかったんですよね」と苦笑する。「メジャーアーティストのアルバム曲や、いわゆるB面のリクエストが集まると思っていたんですよ」。

 リアルタイムリクエストを開始したのは2006年11月。ニコニコ動画が始まったのが翌年の2007年1月で、ちょうど動画サイトが盛り上がりはじめた頃だった。動画サイトの伸びに背中を押され、リクエスト数は爆発的にふくらんでいった。

ニコ動とJOYSOUNDで変わる、ネット時代のカラオケ (1/3)

※ニコニコ動画の開始が2007年1月とされているのは、ニコニコ動画の公開テスト期間が終了した2007年1月15日を指しています

ユーザーからの要望なので必然だったということです。
本題に戻ると、この記事には以下の一文もあります。

こうしたネット上の楽曲を扱う上では、楽曲の二次利用を通じた作家の権利・収益の課題もある。現在、ネット上で活躍する作家たちからは、すべて無償で楽曲を提供してもらっている状態となっている。

ASCII.jp:ニコ動とJOYSOUNDで変わる、ネット時代のカラオケ (2/3)

ボカロだけの問題ではありません。
商業カラオケに進出を果たしたことで、同人音楽そのものの問題として顕在化しました。
動画サイトによって急速な発展を遂げた同人音楽に対し、音楽業界の制度が追い付いていませんでした。

別な視点から見れば、同人の商業進出が嫌われた時代のカラオケ収録が受け入れられた理由の1つには、同人音楽家は収益を得ていなかった事情もあったと思います。

そしてもう1つ、重要なことがあります。
この頃のインターネットユーザーには、JASRACへ信託することに対する大きな抵抗がありました。

かつて行われた、JASRACによるMIDI狩り。
その次の世代にあたる同人音楽家であったボカロPは、JASRACを嫌っていました。

その感情はさらに加速し、JASRAC嫌いはニコニコユーザーにも及びました。
ある事件によって。

初音ミクJASRAC登録事件

※「みくみくにしてあげる♪JASRAC登録事件」と記載されることもありますが、より本質に近い見出しの方にしました

時はメルトショックと同時期の2007年12月。
「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」がJASRACに登録されたとする以下の記事が、インターネット上で大きな話題を呼びました。

この時すでに、同曲の着うたの配信が開始されていました。
※着うたはガラケーやスマホの着信音用の音楽です。ガラケーが普及していた2000年代によく使われていました

初めに特記すると、この事件はとても複雑です。

  • 問題となった初音ミクの当該楽曲が、ボカロPの合意なく着うた配信されたこと
  • 関係各所の認識違いによって、JASRAC管理楽曲になったこと
  • JASRAC管理楽曲になったことで、二次創作ができなくなったこと
  • JASRAC登録時にアーティスト名が記載されなかったこと
  • インターネット上で関係各所が誹謗中傷、成りすましされたこと

上記に付け加えると、当該楽曲は二次創作がとても盛んでした。
これらすべてをまとめて「初音ミクJASRAC登録事件」と呼ばれます。

さらに登場人物の意見が食い違っていることが、この事件をより複雑にしています。
そのため、ソースのみを提示して簡潔にまとめます。

登場人物

  • 同曲の作詞作曲家(ボカロP)
  • 初音ミクの版権を持つクリプトン・フューチャー・メディア(クリプトン)
  • CDの制作・発売及び著作権管理等を行うドワンゴ・ミュージックパブリッシング(ドワンゴ)
  • 権利関連の業務代行を行うフロンティアワークス(権利代行会社)
  • 著作権管理を行う管理事業者(JASRAC)

この事件の前に、ボカロPはドワンゴに著作権を委託しました。
ドワンゴは同曲をJASRAC管理楽曲とし、着うた配信を行いました。
クリプトンは業務の繁忙を理由に権利代行会社を立て、権利代行会社が契約周りの業務を遂行しています。

問題点

  • ドワンゴは、「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」をJASRAC管理楽曲にした
    →同曲を使った二次創作ができなくなり、二次創作を促進するクリプトンの意向に反した
  • ドワンゴは、ボカロPの合意なく着うた配信を行った
    →ボカロPと契約書を交わさずに着うた配信を行った
  • ドワンゴは、JASRACにアーティスト名「初音ミク」として登録した
    →クリプトンは「作家名+featuring初音ミク」での登録をドワンゴに依頼していた
  • 権利代行会社は、ボカロPと契約を交わしていなかった
    →ドワンゴは権利代行会社がボカロPと契約を交わしたものと認識していた

太字が大きく取り上げられた点です。
ニコニコ掲示板の2007年12月18日のスレッド2ちゃんねるの2007年12月17日のスレッドで当時の空気感を見ることができます。
※ニコニコ掲示板はサービス終了済みなのですが、なぜかアクセスできたので参考にどうぞ。インターネットの悪意を体現したような書き込みもあるので、耐性がなければ見ないことをおすすめします

事件中は主にドワンゴとJASRACが叩かれました。
一見するとドワンゴが悪いような気がしてしまいますが、一方でクリプトン側には、JASRAC登録前にアーティスト名を指定しているにも関わらず、JASRACに登録する認識がなかったとする矛盾があります。

これはドワンゴとクリプトンの主張に食い違いがあり、何が真か分からなくなっているからです。
時系列順に説明した記事もあり、両社が反論を繰り返していたことが分かります。

なぜそうなったかというと、口頭でやり取りを行ったため、言った言わないの水掛け論になったからです。

企業同士がコメントを出していることから規模が大きな炎上と言えるでしょう。
最終的に、この事件は両社が和解することで解決しました。
(記載はありませんが、恐らくボカロPや権利代行会社とも和解しただろうと思われます)

同人音楽をこのように扱う例が極めて稀であったことも原因でしょうし、音楽業界にある慣習(なあなあで話を進める空気)が原因であるともされています。
なお特筆すると、ドワンゴが初音ミクの着うたの配信を始めたのはこれが初めてです。

ところが事件は、両社の和解のみでは解決しない問題を残してしまいます。

ユーザーの反応

ドワンゴとクリプトンが揉めたことや和解したことなどは、重要ではありませんでした。
ユーザーにとって重要なのは「同曲がJASRAC管理楽曲になったこと」です。

2007年9月に投稿された同曲ですが、最初からJASRAC管理楽曲であったわけではありません。
突如としてJASRAC管理楽曲になったのです。

初音ミク作品で最も人気の「みくみくにしてあげる【してやんよ】」の2次創作の広がり(ヤマハ剣持さんが作成した資料より)。3Dのプロモーションビデオが付き、「歌ってみた」と称して自分で歌って投稿する人が続々と現れ、歌詞を鹿児島弁や神戸弁、広島弁などさまざまな方言に変えた「歌ってもらいました」が流行した

初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で(1/2 ページ) - ITmedia NEWS

JASRAC管理楽曲を無断で使用してはなりません。
そうなると、今までアップロードされた派生コンテンツの存在も認められません。
歌詞の記載もNGですから、コメントで歌詞を載せた人も無断利用になるかもしれません。

ユーザーは混乱しました。

ニコニコ動画外にも「フルみっく伝染歌プレーヤー」というブログパーツ(ブログがあれば誰でも設置できるツール)があり、これを設置すると初音ミクを使用した楽曲を再生できましたが、この事件をきっかけに同曲が再生リストから除外されました。

 だがJASRACに信託すると、2次利用の連鎖が生み出した創作のサイクルが止まる。信託楽曲になった「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」は、カラオケや着うたになった代わりに、ミク楽曲配信ブログパーツ「ふるみっくプレーヤー」から消え、ミク曲のまとめサイトから歌詞や動画が消えた。

JASRACモデルの限界を超えて――「初音ミク」という“創作の実験”:クリプトン・フューチャー・メディアに聞く(4) 最終回(1/3 ページ) - ITmedia NEWS

これにより、JASRACに登録すると初音ミクが自由ではなくなるという認知が広まり、ユーザーは強く反発しました。

この記事の冒頭部分には、当時の中傷コメントが流れている動画のスクリーンショットがあります。
それを見れば、JASRACが非難されていた当時の空気感が少し分かります。
ちなみにニコニコ動画はコメントのサイズや色をユーザーが決めることができ、例えば赤字の大サイズはかなり強調したコメントになります。

この事件ではJASRACは巻き込まれた側なのですが、最もイメージを悪くしたのはドワンゴでもクリプトンでもなく、JASRACです。
かつてMIDI狩りを行った時の悪感情が刺激され、歴史上最もJASRACが非難された瞬間になりました。

ジャスラックとカスラックのGoogleトレンド(2007年12月)
「ジャスラック」と「カスラック」のGoogleトレンド
「カスラック」とはJASRACの蔑称であり、2007年12月にピークに達していることが分かる

何にも縛られず自由に活動していたのに、唐突にお金の話が出てきて「使いたければ金を払え」という現実を前にユーザーはビジネスっぽさを感じてしまいました。
この商業に対する嫌悪感が、本事件の約半年後に起こるシンデレラ・ロマンス問題の背景です。

ドワンゴの対応

ドワンゴは、騒動の5日後に「ニコニコ動画内であれば二次利用を可能とする方針」を示しました。

「みくみく〜」はほかのユーザーが動画を投稿する際の楽曲としてもよく使われているが、今後利用したい場合には、どのようにしたらよいのだろうか?

ドワンゴに聞いたところ、ニコニコ動画内での利用については、「ユーザーに代わってニコニコ動画が使用料を支払う方針でJASRACと協議している」とのこと。

楽曲「みくみくにしてあげる♪」がJASRAC管理に、利用はどうなる?

実際に、2008年4月1日にはニコニコ動画内でJASRAC管理楽曲の二次利用が可能になりました。
上記の方針の通りニコニコ動画が代わりにJASRACに使用料を支払うことで決着が付いています。
「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」に限らず、すべてのJASRAC管理楽曲が対象です。

そしてニコニコ動画の契約締結から4か月後、YouTubeでも同様の契約が結ばれました。

JASRACは、インターネットで動画サイトが流行り出した時点でこれに向けた行動を始めています。
2007年6月から契約の準備を始めており、ニコニコ動画も事件前から協議を行っていました。
図らずして先手を打っていたのです。

JASRACは2007年6月に「動画投稿(共有)サービスにおける利用許諾条件について」と題する文書を配布、音楽著作権の包括的な利用許諾を受け付ける態勢を整えた。これに基づき、同年7月にJASRACとヤフーとの間で初の包括許諾が締結された。JASRACとニワンゴとの間でも、同年10月に契約締結に向けた協議を始めていた。

JASRACとニコニコ動画がついに契約、楽曲の二次利用が可能に | 日経クロステック(xTECH)

YouTubeよりもニコニコ動画の方が契約が早かったのは、本事件があったからとも推察できるでしょう。

これにより、YouTubeやニコニコ動画で商業音楽が合法的に投稿されるようになりました。
商業音楽と同人音楽が同居する動画サイトが誕生し、両者の境目が1つ消えたことになります。

現代からは考えられませんが、当時は動画サイトに合法と言える商業音楽はほぼありませんでした。
作詞・作曲家が投稿する場合も手順を踏まなければ、本人ですら権利に反します。
現代では得るべき収益を得られないだけで済むでしょうが、当時はさらに酷でした。

この契約の前身となったのが「MIDIフォーラムの著作権使用料の支払い代行」です。
2001年9月17日の記事で、存続の危機に立たされたMIDIフォーラムは、DTMのソフトウェアメーカーの協力を得て利用者が公開したMIDIの著作権使用料を肩代わりした、と記載があります。

インターネットのウェブサイト上には、個人が制作したヒット曲などのMIDIデータが多数公開されているが、7月以降、JASRACが新たに定めた著作権使用料規定が適用。同団体が管理している楽曲については、個人が非営利目的で公開する場合であっても著作権使用料が義務づけられることになった。10曲あたり年額1万円(月額1,000円)または1曲あたり年額1,200円(月額150円)が発生する。

@niftyの「MIDIフォーラム」ではこれまでパソコン通信上のサービスとして、会員が自作のMIDIデータを公開できるコミュニティを運営していたが、新規定の適用により「存続の危機」に直面してしまったという。そこで同フォーラムでは、会員が無料でMIDIデータを公開できる場の存続をニフティに提案。さらに両者が楽器メーカーのスポンサー協力を得て、今回のウェブサイト開設に至った。

サイト運営をニフティがサポートとするとともに、有数のDTM用楽器メーカーであるローランドとヤマハが著作権使用料を肩代わりする。これにより、MIDIフォーラムが楽曲の使用許諾手続や著作権使用料の支払いを代行するかたちとなり、@niftyの会員であればこれまで通り、無料で手軽にヒット曲などのMIDIデータを公開できる。

JASRACの著作権使用料フリーでMIDIデータを公開できるサイト

実はMIDI文化が既に通っていた道でした。
これが動画投稿サイトの包括契約に昇華し、MIDI文化が遺した最大の置き土産になりました。

 インターネットに移転したMIDIフォーラム(07年に終了)では、ニフティやスポンサー企業がユーザーの代わりに著作権料を支払うという仕組みで運営してきた(関連記事:@nifty「MIDIフォーラム」で無料楽曲利用が可能に JASRACが正式許諾:2001年掲載)。YouTubeやニコニコ動画も同様に、著作権料は投稿サイトが肩代わりして支払う――という方向で議論を進めている。

初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で(2/2 ページ) - ITmedia NEWS

現代では聴き手がJASRAC管理楽曲か否かを意識する機会はないでしょう。
音楽業界を語る上で、この出来事は絶対に欠かせません。
ボカロ文化においても絶対に欠かせないのですが、同時に事件の難しさと扱いづらさにも触れることになるので、詳細に語られることは稀です。

しかしこれとは別に、汚名返上には時間をかけて信頼を積み上げなくてはなりません。
ユーザーやボカロPに対しては「初音ミクの楽曲がJASRAC管理楽曲になること」に悪い印象を与えてしまった後であり、この印象の払拭には長い年月をかけることになります。

ボカロPに対する批判

この騒動に関して、ボカロPに対する批判もありました。

同曲の作者ika_moはこの騒動の中「もうけ主義」との批判を向けられ[20]、「みんなの自由な利用を制限する気は無かった」という旨のコメントを出した後、ブログを閉じることとなった[21]。

また、津田大介らによればネット上に存在した、ユーザーが作り上げたコンテンツにおける嫌儲と呼ばれる思想なども影響したと指摘する[22]。 この出来事の場合、消費する側の間にも楽曲を「自分たちが応援して育てたコンテンツ」とみなし、受け手と著作権者は対等であるという感覚が広まり、それが著作権を行使した作曲者への反感という形で発露したのだとする分析もある[22]。

みくみくにしてあげる♪【してやんよ】 - Wikipedia

なお着メロ配信はボカロPの合意なく行われましたが、JASRACへの信託にはボカロPの合意を得ています。

ボカロPのブログ文がソースですが、ブログは当時、騒動のさなかで本人の意思で削除されたため、引用はしません。
なおGoogleキャッシュやInternet ArchiveやWeb魚拓にも原文が残っておらず、探しても見つかるのは引用文のみで、元ソースはネット上から完全に消えています

「みんなの自由な利用を制限する気は無かった」旨のコメントを出したことから、ボカロPにはJASRACに信託すると二次創作ができなくなるという認識がありません。
JASRACに信託する提案を行ったのはドワンゴであるため、ドワンゴの担当者にもその認識がなかったと思われ、デメリットを説明しなかった可能性が高いです。

事件後はドワンゴとクリプトンが論争を繰り返し、情報が錯綜し、真実が分からなくなりました。
そのため「お金を稼ぐためにボカロを利用したのではないか」という疑念が晴れませんでした。

そして不特定多数に非難された結果、ボカロPは自身のブログを閉鎖してしまいました。
当時のブログは、今で例えるところのTwitterやInstagramなどのSNSアカウントです。
つまり、自身とインターネットをつなぐ窓口を閉じたということです。

この事件が騒がれ始めたのは12月17日で、和解の発表が12月25日です。
事件の長さは9日間。世間はクリスマスでした。

この事件では、著作権で最も守られる存在が、著作権によって最も被害を受けました。
恐らくこれこそが、関係各所が悔やんだ出来事だったでしょう。
関係者が多い騒動であり、さらに企業同士で意見が異なる場合は立場とメンツの問題から議論を長引かせることがありますが、それを思わせないスピード解決でした。

さらにドワンゴはこれをニコニコ動画内で利用可能にしたことで、責任を果たしました。

ボカロPから見た事件

事件直後、OSTER projectさんが自身のブログで自身の現状を説明しました。
なぜ説明したのかというと、事件で着うた配信された6曲のうち3曲が同氏の楽曲だからです。

まず、契約云々について。 先ほどJOYSOUNDから電話が入りました。大まかに言うと、「恋スルVOCA@LOIDについて、無断でカラオケに配信された。」 という書き込みが私の名義で某所にされていたが、何か契約段階で不手際がありましたか、という感じの内容でした。 しかし実際、私はそんな書き込みどこにもしてません。 今後も匿名性の高いスペースにおいてそういった書き込みをする予定はないので、見かけても全部スルーしてください。

実際のところ、恋スルVOC@LOIDのカラオケ配信については、JOYSOUNDと ちゃんと事前に連絡を取り合い、正当な手続きを踏んだ上で配信していただきました。 ドワンゴの着うたと着メロの配信についても、少なくとも私の場合は正当な手続きを踏んだ上での配信でした。 しかし権利関係の揉め事でイベントが前後したりしたのも事実です。 (いつの間にかうp主、ドワンゴ、仲介企業、クリプトン間の契約とかいうとても複雑なことになってて、 現在でもそこの契約で停滞しています。)

それともう一点、オリジナル曲の管理を委託して貰いたい、という提案がドワンゴから私のところにも来ていました。 しかしこの件については既にお断りさせて頂いてます。 理由などの詳細は伏せさせて頂きますが、どの曲もJASRACに登録するつもりはない というのが現在の私の意向です。

楽曲の権利関係等について

本事件をきっかけに「楽曲が無断使用された」「契約に不手際がある」とする匿名の情報が相次ぎました。

当時はTwitterがメジャーではなく、InstagramやTikTokなどはありませんでした。
文章中の「某所」というのは2ちゃんねる(現5ちゃんねる)です。

この時代は一部のボカロPがブログを運営しているに留まるので、ニコニコ動画外でハンドルネームを使って活動しているとは限りません。
ニコニコ動画は「楽しむ場所」であるため、告発動画をアップロードする風潮もありませんでした。

当時2ちゃんねるのDTM板を利用していたボカロPはたくさんいます。
つまり告発場所として2ちゃんねるを利用するのは十分にあり得ます。
だからJOYSOUNDは確認の電話を入れました。

そして、OSTER projectさんは成りすましによる被害を受けたことを知ったのです。

事件とは関わりのないJOYSOUNDからの連絡があったのはそういうことです。事件の混乱ぶりが伺えます。
当時の見切り発車的な契約の流れがあったことも見て取れます。

ドワンゴから楽曲管理を委託してほしいという提案が自身にもあったこと、それを断ったこと、JASRACに登録する意思がないことも明かしています。
理由は明かされていませんが、JASRACへの登録が何を意味するかを知っていたからでしょう。
※後の音楽業界における仕組み改善から、今はOSTER projectさんも信託を行っています

つまりOSTER projectさんは「着うた配信は許可するがJASRACには信託しない」という選択をしています。
この時代にこの選択を取れたのは、かつてJASRACによって行われたMIDI狩りを知っていたからでしょう。
なぜなら、OSTER projectさんは2003年頃から活動を行っていた同人音楽家だからです。

着うた配信はJASRACに信託しなくとも可能です。
ではなぜ事件のボカロPがJASRACに信託したのか、その詳細な経緯や理由は不明です。
カラオケの話も事件には出てきません。

事実であるのは、当時の音楽業界ではJASRACに信託するのが普通であったということと、ドワンゴとボカロPの双方がメリットを互いに認識し、信託に至ったということだけです。
しかしデメリットについては互いに認識がなかった、ということだと思います。

このことから、事件で渦中の存在だったボカロPにも落ち度がないわけではありません。
しかし創作活動を行っていても、著作権に対する正しい理解があるとは限りません。
創作者が創作を行う時、初めに出てくるのは「絵を描きたい!」「曲を作りたい!」「ゲームを作りたい!」という思いです。
それに伴って発生する権利の取り扱いは後から知るケースが大多数でしょう。

加えて「初音ミクのJASRAC管理楽曲化」という前例のないことです。
事例があれば知識がなくとも判断しやすいのですが、そういうわけにはいかなかったのです。
さらにWikipediaを見ると、それが本格的に作曲を始めたばかりの作品で、当時お若いことも分かります。

またOSTER projectさんは同記事で「私は初音ミクや作曲が好きで、それを聴いてもらえることや共感できることが嬉しいので、それができなくなったら悲しい」旨も述べています。
目立たないように書かれた文章なので引用は避けますが、これは最も重要な証言です。

音楽系ジャーナリストから見た事件

事件から半年ほど経った2008年7月18日に、VOCALOIDが抱えている問題を対談で語った記事です。

この騒ぎを見ていて思ったのは、JASRAC側がわりと悪者にされていたんですけれど、別にそれって本質ではないなと。JASRAC側は普通に仕事で「初音ミク」というアーティスト名で登録してくださいという依頼が来て、それをルールに従って受け付けただけですから。

クリプトンの伊藤社長は着うた配信の契約について、DMPがクリエイターに口頭で許諾を得、契約書は後で取り交わそうとしていたと説明。「口頭の承諾で受けて『契約は後で』という『業界のルール』が、一般の方も多いクリエイターの意識とはズレがあるということを認識してもらい、今後は当社側で書面での確約が取れてから配信に移すということを守っていもらいたい」と批判していた

結果として残念だなと思ったのは、やはりそれで「嫌儲」(けんちょ。人がもうける行為を嫌うこと)の話が出てしまって、あれ以降、なかなかそういう風になりにくい(初音ミク楽曲をビジネス化しにくい)雰囲気ができたのは、すごく残念だった。

初音ミクが出たときに、あそこからアマチュア作曲家で才能のある人が目立っていって、結果としてプロデビューするというルートが、そんなにたくさんではないかもしれないけれど、1年に1人とか誕生するルートが出来ることを楽しみにしていたし、そうなってほしいなと思っていたんですよ。

「みくみく」で、やっとそうなるのかなと思ったら、ああいう風になってしまった。たぶん作者の人は全然悪くないのに、「もうけるのはけしからん!」とか「権力側の片棒かついだ」みたいに周りが勝手に騒ぎ始めて。やっぱり出る杭は打たれるから出ないようにしようみたいな、そういう雰囲気になったのが結果としてすごく残念で。その後も何度か同じことが繰り返されてますけれど、起こる度に、かわいそう、それやめた方がいいよなと思ってますけどね、見てる側としては。

そういう特殊な文化があるからこそ、既存のコンテンツ産業の人が、UGCみたいなものに対して「どうせ素人がやってることでしょ」みたいに冷ややかに見ているところがあると思うんですよね。音楽業界の人って、初音ミクのこととか全然追いかけてないよねって話は結構よく聞くんですが、そのあたりってどうなんですか?

※UGC (User Generated Content)というのは、ボカロのように一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツのことです

上記の記述から、事件の背景には

  • 音楽業界には口約束をし、後に契約を交わす慣習があった

ということが分かり、事件が与えた影響は以下であることが分かります。

  • JASRACの印象が悪くなった
  • 初音ミクがビジネス化しにくくなった
  • 同人音楽家がプロになりにくくなった

なお一部のみ引用しましたが、この記事は事件を外部から見た際の空気感を分かりやすく執筆しています。
濃い内容ながら4ページに収まっている秀逸な記事なので、ぜひ読んでみてください。

事実上不可能な部分信託

JASRACに信託した結果、「初音ミクJASRAC登録事件」が起きてしまいました。
これ以降、事件を目の当たりにしたボカロPたちはJASRACに楽曲を信託することはありませんでした。
ただでさえ悪いJASRACの印象が最悪に落ち込みました。

――デッドボールP自身のJASRACへの印象は?

デP:「正直、あまり知らなくて。カスラックと呼んでいる人もいるから、まあ良くないんだろうと。JASRACにまつわる都市伝説みたいなものも色々あるじゃないですか。信託することによるマイナスはあるし」

――そのマイナスとは何ですか?

デP:「イメージです。JASRACに信託しているというイメージ。ファンというか、視聴者の誤解が怖い。何もしなくてもニコ動は荒れやすい場所だし。それに加えてJASRACに信託なんかしたら、荒れるのが目に見えてる。そういうイメージですよね」

https://web.archive.org/web/20110222084333/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110214/1034478/?P=3

※「JASRACにまつわる都市伝説」というのは、MIDI狩りだけでなく1994年の不正融資疑惑などもあるでしょう。詳しくはこの記事

事件により「JASRACに信託すると二次創作ができなくなる」という問題が周知の事実となりました。
ところが問題は1つだけではないことに誰も気づいていませんでした。

カラオケによる配信が始まったのは、奇しくも事件が起こった2007年12月でした。
事件の規模の大きさに話題が隠れてしまい、この時は大きく取り上げられませんでした。

そうです。
カラオケから収益を得る場合はJASRACに信託しなければなりません。

  • ネット上で自由な利用を促進する仕組み
  • カラオケの利益を権利者に分配する仕組み

この2つを満たす仕組みがなかったのです。

  • 権利元や関係者が誰も望んでいないのに二次創作が突如禁じられる
  • 著作者が著作権のせいで被害を受ける
  • 商業カラオケランキング1桁で収入なし

結果として上記の状況を生み出してしまいます。

ところが、実はこの2つを両立する制度があったのです。
2002年4月1日から有効になった管理委託範囲の選択制、俗に「部分信託」と言われる仕組みです。

「全ての権利を信託しなければならない」から「一部の権利のみを信託できる」ようになります。
例えば「インターネットにおける利用だけはJASRACに信託しない」というような使い方が可能です。
※具体的には「演奏権」「通信カラオケ」を信託し、「配信」を信託しなければOKです。詳細はJASRACのページをご覧ください

つまり2007年の時点で「カラオケ配信のみをJASRACに任せ、インターネット上の利用はボカロPの判断で自由にする」ことが可能でした。
初音ミクJASRAC登録事件もカラオケから収益を得られない問題も、回避可能だったのです。

そう、制度上は。

この部分信託は、個人では実質的に利用できませんでした。
なぜなら、音楽業界には「JASRACに信託を行う=全信託を行う」という図式があったからです。

個人が音楽をJASRACに信託する場合、音楽出版社を通すのが通例です。
その出版社が部分信託に対応していない、というのが業界の状況でした。

初音ミクJASRAC登録事件では、ドワンゴが音楽出版社です。
JASRACのページ(アーカイブ)によれば、音楽出版社は2007年12月17日時点で約2000社存在します。
その全てが対応していなかったということです。

 だが、この「部分信託」もこれまでは行われてこなかった。アマチュアのクリエーターにとってはハードルが高すぎたのだ。まずJASRACの会員になると、すべての曲を何らかの形で信託しなければならなくなる。音楽出版社を使えば、特定の曲のみ信託範囲を変えて登録することもできるが、そうした部分信託を業務として請け負う出版社は表向きなかった。

https://web.archive.org/web/20110222084333/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110214/1034478/?P=2

※「表向きなかった」というのは個別の交渉も可能だからです。しかしながら非常に労力が必要なことであり、簡単なことではありません。

音楽出版社を通さずに個人でJASRACに信託することも可能です。
これなら部分信託が可能ですが、当時はそのような例もなく、個人で契約することそのものが困難を極めます。
仮に契約したとしても、原則として自身が持つ全ての著作権をJASRACに移転しなければなりません。

 JASRACの信託者になると、信託契約の契約期間中、自分がこれまでに作って
きた音楽作品と、これから作る音楽作品のすべての著作権がJASRACに移転する
ことになります
(管理委託契約約款第5条1項)。
 ですので、今後は、音楽出版社に著作権譲渡するような場合を除き(同3項参
照)、基本的には音楽作品の著作権を第三者に譲渡することができなくなってし
まいます。たとえば、地下アイドルのプロダクションやゲーム会社に、気軽にい
わゆる「買取り」で著作権譲渡することができなくなります。そのため、
JASRAC信託者の作家に仕事を依頼したがらないプロダクションやゲーム会社も
あります。

https://www.dtmstation.com/wp-content/uploads/2020/10/sample.pdf
「原則」の例外

「原則として」というのは、例外もあるからです。
実際に契約書を見てみましょう。

第3条 委託者は、その有する全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を、本信託の期間(以下「信託期間」という。)中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法(昭和45年法律第48号)第28条に規定する権利を含むものとする。

著作権信託契約約款 - JASRAC

一例として第10条も見ていきます。

第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号のいずれかに該当するときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる。

(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。

(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

著作権信託契約約款 - JASRAC

「社歌、校歌等特別の依頼により」の特別の依頼というのが何に当たるかいまいち分からないので、拡大解釈をしないものとすれば、概ね以下の認識で合っていると思います。

  • 社歌もしくは校歌の依頼なら、依頼者に著作権を譲渡できる
  • 楽曲個別に音楽出版社を通してJASRACと信託することができる

「あらかじめ受託者の承諾を得て」と記載があるので、これらは毎回JASRACの許可を得る必要があります。

法律が絡む説明なので念のため。
2023年時点で、私は音楽における著作物の管理や運用などに携わったことがありません。
素人意見であることをご了承ください。

ここからは私独自の解釈です。
1つ目の「特別の依頼」とは、社歌と校歌を例に挙げていることから、恐らく公益性が高い社会的活動を目的とした音楽の制作依頼でしょう。商業活動や同人活動のほとんどの依頼に当てはまりません。
2つ目は音楽出版社を通すメリットがあれば、個別に契約することができるということです。出版社は楽曲のプロモーションを行ってくれることがあります。著作権の移転先がJASRACから出版社になるだけで、結局JASRACに信託しなければならないので、今回のケースでは恩恵を得られません。

よって、この条項が同人音楽において有利に働くことはありません。

さて、この大変さが少しでも伝わるでしょうか?
個人契約を行うには、この難しい契約書を隅から隅まで読む必要があったのです。
当時も私と同じことをした方がいらっしゃったと思いますが、その結論が「契約すべきではない」なので、肩を落としたでしょうね。

他にも例外はあるので、気になった方は約款を読んでみてください。

いずれにしても、個人で信託すると個人で自作曲を管理することが不可能になります。
いわゆる同人作家にはそぐわない契約です。
名義を分けて活動することだってありますからね。

自分で作った音楽の著作権者が全て自動的にJASRACになるなんて変な契約に感じますよね。
管理上そうせざるを得ないのでしょう。
JASRACが管理する企業や人間の権利がどれほどあるか、少し考えれば分かります。

将来作る楽曲も含めて全てJASRACが著作権者になるため、活動が大幅に制限されます。
映像業界やゲーム業界などによくある「楽曲の制作を依頼し、それを著作権ごと企業が買い取り、企業が著作権を管理する」ケースに対応できなくなります。

将来的にそういう依頼が来ても、既にJASRACと契約済みだから諦めざるを得ないということです。
活動の幅が狭まってしまいます。
将来的にプロを志す者にとっては致命的です。

それが音楽出版社を通すと、楽曲ごとに著作権を信託できるようになります。
「前作った曲はJASRACに全信託したが、今回は他者に著作権ごと提供する」などが可能になるのです。

しかし音楽出版社を通すと部分信託ができなくなります。
部分信託ができないということは二次創作ができなくなります。

八方塞がりですね。
上記とは別に、JASRACの入会金と年会費も個人にとってはハードルが高いです。

作詞・作曲をする方  入会金:25,000円/年会費:4,000円

会員制度 JASRAC

同人であっても音楽活動にはお金が必要です。
ボカロPなら初音ミクなどのパッケージはもちろん、制作用PCとDAWは必須です。
DAW用のプラグインやMIDIコントローラや音響機材も欲しくなるでしょう。

お金がなければないなりの工夫をします。
JASRACは必須ではありませんし、多少なりとも利益を上げる前提の活動でなければ投資をためらう額です。
もしも作詞・作曲家が学生ならば猶の事です。

個人契約か音楽出版社を通すかに関わらず、JASRACへの信託そのものを行わない選択肢が現実的です。
要は「何もしないのが最善」ということです。
この選択をするとカラオケからの収益を得ることもできませんが、背に腹は代えられません。

活動の幅を狭めることなく、二次創作を促進しつつカラオケから収益を得る方法は存在しなかったからです。

カラオケで著作権使用料を得たければ「演奏」「通信カラオケ」を信託すればいい。

ただし、個人でJASRAC登録すると、「原則」として全作品を信託しなければならない。音楽出版社を通してJASRACに登録すれば曲単位の登録が可能になるのだが、部分信託に特化した業務を請け負う出版社はなかった。業界の慣習は今まで、ほぼ「全信託」オンリーだったからである。

つまり事実上、曲単位の信託も、支分権を使った部分信託も、個人ではできない状態が続いていたのである。

ASCII.jp:「作家が主役」の時代――JASRAC・部分信託で何が変わる? (1/6)
JASRACに信託を行わない場合、カラオケとインターネット以外ではどうなる?

記事ではカラオケに焦点を当てていますが、1つの権利でも様々な状況を想定しています。

  • コンサートやイベントでの演奏
  • 映画での使用や飲食店などで流れるBGM

上記は「演奏権」の一例です。

演奏権を信託しない場合は自分で管理することになるので、「あなたの楽曲を使いたい」という連絡を受けた場合は自分で許可を出すか否かを判断して、交渉の上で価格を決めることになります。
それも時間を取られる上に精神的な負荷が高くて大変なことですが、さらに厳しい現実があります。

厄介なのは、無断使用されて納得がいかなかった場合、自分で訴えを起こす必要があることです。
金銭を請求する場合、状況によっては請求額に妥当性を持たせなければならず、無断使用された事実だけでなく、どの場所で、何時何分から何時何分まで、それを聴いた人数まで証明しなければならないこともあります。

JASRACに信託すればこれらを全てやってくれるのですが、個人がやるのは大変ですよね。
大変なので音楽業界ではJASRACに信託するのが当たり前だったのですが、こうした仕組みを享受できなかったのも、当時のボカロPが置かれていた状況でした。

水と油を混ぜる者

難解な内容が続いたかもしれません。
一言で言えば、当時の音楽業界と二次創作の相性が悪いということになります。

ここまでの現状をまとめます。

  • 個人で全て管理するか個人でJASRACに部分信託しなければ、二次創作ができない
  • JASRACに信託しなければ、カラオケから収益を得られない
  • 個人によるJASRACの信託はほぼ不可能。音楽出版社を通せば可能
  • 音楽出版社は部分信託に対応していない
  • そもそもJASRACに信託することに抵抗がある

頭が理解を拒むような箇条書きですね。
面倒だし関わりたくないという感覚が近いのではないかと思います。
これがボカロPが「JASRACに信託せず、個人で全て管理する」選択肢を取った理由です。

それよりも、VOCALOIDを通した交流や活動、音楽を続けることが大事でした。

こうしている間にもカラオケに楽曲が増えていきます。
リスナーに求められているからです。

この間、関係者が傍観していたわけではありません。
少なくともクリプトンが事態の改善に奔走しています。

2009年1月20日の記事

現状のカラオケ配信方式では、楽曲の著作権をJASRAC等の管理団体に信託しないと著作権使用料の徴収が難しい構造になっている為、多くのVOCALOID楽曲のように無信託の場合クリエイター様はカラオケ配信において無償で楽曲を提供せざるを得ない、という状況が続いてきました。

この状況があんまりなので、弊社ではこれを何とか改善できればと思い、随分と前からカラオケ業者様とお話し合いを続けて参りました。

カラオケ配信還元とキャラクター利用のガイドラインについて – 初音ミク公式ブログ

2009年6月23日の記事

現行のカラオケ配信では、楽曲の著作権をJASRAC様等の管理団体に信託していないクリエイター様には著作権使用料の分配が受けられない仕組みになっているため、VOCALOID楽曲の多くのように無信託の場合、クリエイター様はカラオケ配信において無償で楽曲を提供せざるを得ない、という状況が続いております。弊社ではこの仕組みを何とか改善したいと考え、その改善を条件とした弊社キャラクターの名称利用について1年以上に渡りカラオケメーカー様と相談させていただいてまいりましたが、残念ながらその仕組みを変えるための答えに双方がたどりつくことが出来ず、かなりの時間を費やしてしまうこととなりました。

当初、弊社よりカラオケメーカー様にお話させていただいた提案は、「楽曲を提供してくださるクリエイターの方々に金銭に限らず何らかの形で還元する方法を模索して頂きたい」、また「カラオケ配信に関する無信託楽曲への著作権使用料の分配について、新しい仕組みが構築できるよう業界も含めて話あって欲しい」といったことでした。しかし還元を行うための原資の確保、またカラオケ業界だけではなく音楽業界全体を含めた話となるため調整が難しいであろう、といったことから結局この協議については解決をみることなく平行線をたどることとなりました。

カラオケ配信がようやくまとまりました。 – 初音ミク公式ブログ

※「カラオケ配信がようやくまとまりました。」というタイトルですが、問題が解決したという意味ではありません

引用元はクリプトンが運営する初音ミク公式ブログです。
カラオケでの配信が始まるタイミングとそう離れていない時期から行動を始めたと思われます。

2つ目の元記事を読むと、紆余曲折であったことが伝わってきます。
理想的な話の実現が難しく、そうであれば別な形で還元できる方法を考えて提案と交渉を重ねたが、最終的にそれも折り合いが付かずに振出しに戻った旨の内容も綴られており、とても長い時間をかけて、何度も視点を変えて綿密に交渉を行っていたことが分かります。

利益を還元することが難しい理由は、カラオケメーカーの問題ではなく音楽業界そのものの問題です。
カラオケメーカーが望んだわけではありません。

このとき、ボカロPが得るはずだった収益をどこが得ていたのか、ソースが見つかりませんでした。
JASRACのページを見る限りでは(分配先の権利者が存在しないことになるので)カラオケメーカーなのではないかと思いましたが、エクシングの反応を見る限り、そうではないと感じました。
恐らく細切れにして他の無数の作詞・作曲家に分配していたのではないかと思います。

カラオケメーカー側はこの状況を批判されており、ドワンゴも問題を認識していました。
なお、ここでのカラオケメーカーとはJOYSOUND(株式会社エクシング)のことです。

「JASRACに信託する以外のスキームはないかと、カラオケメーカーさんと以前から話はしていた」と語るのは、CFM代表取締役の伊藤博之氏。DME取締役 制作管理部部長の仁平淳宏氏も「作家の作った楽曲に対価が払われない状況が続けば、ニコニコ動画楽曲の地位が低くなり、次世代の才能を潰す」と考え、それぞれ解決策を模索していた。エクシングも「作家に払うものを払っていないとファンから誤解され批判されていた」(XME代表取締役の安井正博氏)という。

https://web.archive.org/web/20110320100435/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110304/1034733/?P=3

※CFMはクリプトン・フューチャー・メディア、DMEはドワンゴ・ミュージックエンタテインメントのこと

クリプトンは「初音ミクが大ヒットした企業」です。音楽業界を変える力はありません。
それでも、自分たちがユーザーとともに築き上げてきたものを守る必要がありました。

1年以上の行動を続けて、クリプトンが得られた成果は以下です。

 「初音ミク」などのキャラクター名称をカラオケでも表示できるようにする
 カラオケメーカー様よりカラオケ番号などの情報をご提供いただき、弊社モバイルサイトにてVOCALOID楽曲の検索ができるようにする
 現状ではカラオケメーカー様から楽曲制作者様にカラオケ利用料を支払うことが難しいため、そのフォローとして、カラオケで利用されている楽曲を弊社にて着うた化し「ミクモバ」等で配信して、収益の一部を楽曲制作者様に還元できる仕組みを作る

カラオケ配信がようやくまとまりました。(続編)

※「ミクモバ」はクリプトンが提供するサービスです

読めば分かりますが、解決には一切なっていません。
なぜこうなったかを解説します。

エクシングはカラオケ業界で二番手の企業です。
最もシェアの高い第一興商(DAM)に対抗するため、新しい音楽であるボカロ曲を取り入れて客層を広げたい事情があり、利益を上げるためにたくさん歌ってもらいたいので、初音ミクのようなキャラクター名を使用して、ボカロ曲が歌えることを強調することにメリットがあります。
しかし「初音ミク」は商標なので、クリプトンが許可を出さない限り使用できません。

だからクリプトンは自社のキャラクター名称の使用許可を交渉材料にしました。
ビジネスにおける交渉は、相手方にもメリットがあるという前提のもと進めなければならないからです。
エクシングがこの商談に応じたのは、クリプトンの立場と理念に理解を示したからでしょう。

それでも話は平行線を辿ってしまいます。
妥協案として、エクシングに使用許可を出す見返りに、キャラクター名で検索を行えるようにしました。
これは「ユーザーが楽曲検索を行いやすいように」という理由であることが明かされています。

これは私の憶測ですが、「音楽業界の仕組みの問題でお金という形で還元できないのならば、もっと多くの人に歌ってもらえるようにして、音楽業界でVOCALOIDを無視できない存在にする」という狙いがあってのことだと思います。
もしそうだとするならば、クリプトンの狙いは大当たりでした。
この翌年のカラオケランキング上位10位に、ボカロ曲が5曲もランクインしたからです。

問題の本質である「ボカロPに対しての還元がない」という点について、クリプトンは自社が介入できる範囲でボカロPに還元する仕組みを用意しました。
この交渉のさなかである2008年9月16日、クリプトンは自社サービス「ミクモバ」を立ち上げています。

カラオケ配信を行った楽曲をクリプトンが着うた化し、ミクモバで配信することで、同サービス経由ならばボカロPが収益を受け取れるという仕組みです。

クリプトンは大人の事情に対して、大人のやり方で真っ向から戦いました。
それがこの成果です。

あえて良くない表現を使いますが、「初音ミクというたまたま当てた製品」の企業がクリプトン・フューチャー・メディア社で本当に良かったと思います。
調べていて、コンテンツを大事にしようとか、自社のユーザーに対して真摯に向き合う姿勢が文章越しでも十分なほど伝わってきました。
いい加減な企業ならこうはなっていなかったでしょう。

そんな素晴らしい企業の社名の由来は「社名に意味はなく、適当な乱数から検索に引っかからない名前を生成した」とのこと。せやな。

そう、クリプトンは問題を解決することができなかったのです。

力も時間も協力者も、すべてが足りませんでした。
解決には「音楽業界を変える」しかない。
それ以外に道はないことが証明されました。

初音ミクJASRAC登録事件の約3年後。
クリプトンは別方向からこの問題を切り込むことになります。

さらにそこには、ドワンゴ、エクシング、そしてJASRACの姿がありました。

三年間の第一歩、九年間の清算

2010年11月29日、クリプトンが音楽出版社事業の新規参入を表明しました。

ここで発表されたのは、営利目的の利用に限定して著作権使用料を徴収し、インターネット上の非営利(利益を得る目的でない活動)目的の活動ではそれを免除するというものです。
カラオケ関連の権利はJASRACに管理をしてもらい、インターネット上の利用は別管理という仕組みです。

これは同年12月20日に運用を開始します。

2010年12月6日、エクシングも部分信託に対応し、運用を開始したと発表します。
エクシングの子会社に、音楽出版社であるエクシング・ミュージックエンタテイメントがあったからです。

つまり、クリプトンとエクシングの2社が部分信託に対応しました。

2011年3月18日、ドワンゴも自身が直接権利を預かる楽曲に関しての二次創作を認める発表を行いました。

当時のPDF(アーカイブ)から、ドワンゴには部分信託で管理している楽曲があることが分かります。
恐らくボカロP自身が交渉を行った(もしくはドワンゴから提案した)ケースとして部分信託に至ったのだろうと推測します。

その事例を公表し、かつ二次創作を認める表明を行ったということです。
ドワンゴも部分信託に対応しました。

 最初に業務を公にしたのは、エクシング・ミュージックエンタテイメント(XME)だ。通信カラオケのJOYSOUNDを展開するエクシング傘下の音楽出版社で、昨年11月末に部分信託業務をするための第二事業部を立ち上げた。JOYSOUNDに楽曲を提供している作家約10名と契約し、約40曲を登録して業務を開始。現在までに、約35人の約100曲の信託で作家と合意している。

 「初音ミク」などボーカロイド製品を販売する札幌市の音楽制作用ソフトメーカー、クリプトン・フューチャー・メディア(CFM)も、昨年11月末から音楽出版業務への新規参入を表明。部分信託のみを扱い、現在までに約40名と契約。登録済の曲は約300曲に上る。

 ボーカロイドムーブメントの舞台となったニコニコ動画関連では、ドワンゴ傘下にある音楽出版社のドワンゴ・ミュージックエンタテインメント(DME)が積極的に動いている。現在までに契約したボーカロイドPは40名弱、登録した楽曲は170曲ほどという。

https://web.archive.org/web/20110312223814/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110304/1034733/?P=1

※2011年3月8日の記事。この時点でエクシングは約35人、クリプトンとドワンゴは約40人と契約を行ったと記載されています

「部分信託に対応している音楽出版社がないならば、自分たちがなればいい」ということです。
実現に時間を要したことから、恐らく準備には苦労が絶えなかっただろうと思います。

こうしてボカロPは部分信託を行うことが可能になりました。

なぜ上手く事が進んだのでしょうか?
理由を解説します。

仮にこうした仕組みを整えても、依然としてインターネット上にはJASRACに対する不信感があります。
9年前に行われたMIDI狩りから続くこじれた関係が、インターネットにはあるからです。

この仕組みが問題を引き起こすことは本当にないのか。"落とし穴"はないのか?
JASRACが絡む以上、簡単には信じてもらえません。

 それで分かったのが、ボカロPたちの強いJASRACアレルギーだ。JASRACに信託していない場合は著作権使用料を支払えないと説明したが、それでも作家側は入曲を希望したという。その結果、最初のボカロ曲は2007年末にJOYSOUNDで歌えるようになり、メジャー楽曲と比べて遜色のないほど歌われた。現在のJOYSOUNDのライブラリー約14万曲のうち、1000曲以上がボカロ曲だ。

https://web.archive.org/web/20110320100435/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110304/1034733/?P=3

JASRACは、何度も説明を行いました。
"敵の本拠地"であるニコニコ生放送で。

JASRACが最前線で説明したきっかけは、初音ミクJASRAC登録事件でした。
事件後にドワンゴが声を掛けたことで実現に至りました。

――菅原さんがニコ生に出演されるようになって、そういう反発も徐々に減ってきたみたいですが。

菅原:「(ニコニコ動画を運営する)ドワンゴは音楽出版社を持っているので、色々な契約で行ったり来たりがありました。ニコニコ動画と利用許諾契約を結んだあとに彼らから、『都市伝説が色々あるけど実態は違うし、菅原さんはJASRACとして顔を出したほうがいい』と言われて、ニコ生に出たんです。その中でボカロの人たちが、カラオケとの関係で悩んでいるという話を聞いて」

――それが去年デッドボールPと出演した番組ですね。

菅原:「仕組みの問題ではなく『権利者の意思はどうなの?』ということですね。その番組でデッドボールPが権利を預けてもいいかアンケートを取ったら、8割くらいの視聴者に賛成してもらえた。だったら問題ないじゃんという話になりました」

https://web.archive.org/web/20110226103414/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110217/1034531/?P=3

生放送では、ニコニコユーザーからのコメントがリアルタイムで受け付けられました。
特に反響が大きかったのは4つ目の放送です。
生放送の出演者を見ていきましょう。

  • 菅原 瑞夫(一般社団法人日本音楽著作権協会 常務理事)
  • 栗田 秀樹(株式会社エクシング 経営企画本部 編成企画部部長)
  • 向谷 実(ミュージシャン・株式会社音楽館 代表取締役)
  • デッドボールP(ユーザークリエイター代表)
  • 甲斐 顕一(株式会社ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 代表取締役)
  • ひろゆき(ニワンゴ取締役)

「一般社団法人日本音楽著作権協会」はJASRACです。
常務理事というポジションは、企業で例えると常務取締役に相当します。
※分かりやすく言うと社長の次に偉いポジションです。ちなみにこの後、菅原瑞夫さんは理事長=社長になりました

その他には、JOYSOUNDの運営会社エクシングの部長、実業家でもあるプロの音楽家、ボカロP、ドワンゴ関連会社の取締役2名という、そうそうたるメンバーが集まりました。

JASRAC・JOYSOUND・ドワンゴの3者、ボカロPのデッドボールPさん、音楽家の向谷実さん、インターネットで高い影響力を持つひろゆきさん。
このメンツ、狙って集められたことにお気づきでしょうか?
ネットの歴史を調べるとほぼ確実にいるよな、ひろゆき。さすがにこの時は遅刻しなかったっぽい

趣旨は「カラオケ配信にまつわる音楽著作権について」。
インターネットの空気が変わりました。

 通信カラオケに関わる著作権は3つある。演奏データを端末に送信する「公衆送信権」、そのデータを再生機器にコピーする「複製権」、そしてカラオケ店がその規模に応じて支払う「演奏権」。このうちカラオケ店からの著作権使用料徴収は、未だ人海戦術が頼りだという。それができる人員規模を持つ組織は、今のところJASRACしかない。したがって権利者がカラオケから著作権使用料を得ようとすれば、JASRACの一択ということになる。

 ところがJASRACを利用しようとするとネットコミュニティの反発を買う。それでボカロ曲のカラオケと著作権使用料の件も長い間膠着(こうちゃく)状態に陥っていた。そのムードを緩和する流れを作ったのは、前述のデッドボールPとJASRACの当時常務理事で現理事長の菅原瑞夫氏が出演したニコニコ生放送だった。

https://web.archive.org/web/20110223171712/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110217/1034531/

実はこの頃、音楽出版社相手に孤軍奮闘を繰り広げたボカロPがいました。
それが放送に出演したデッドボールPさんです。

――「演奏」「貸与」「放送」「通信カラオケ」を信託していますが、これは自分で考えたのですか? うまい落とし所だと思うんですが。

デP:「自分で考えました。頑張りましたよ。出版社とは『インタラクティブ配信』を入れるか入れないかでモメたんですけど。入れればニコ動やYouTubeから著作権使用料を受け取れる。でも、ネットのサイトというのはJASRACと契約して著作権料を払っているところばかりじゃない。自分の気持ちとしては、それこそWinnyみたいなところでも自分の曲を流してほしいわけです。そもそも無料でニコニコ動画に上げていたものなのに『今日からお金取るよ』というのは仁義としておかしいですから。あ、でも実は、カラオケ嫌いなんですよ」

https://web.archive.org/web/20110222084342/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110214/1034478/?P=5
アーティストなのにカラオケ嫌い?

記事を読んでいて目に留まったので補足。
上記の続きに理由が述べられているので、引用します。

――ええっ、そうなんですか?

デP:「インストが好きなので、友だちと行っても歌うものがないし。キング・クリムゾンとか、やたら長いプログレなんかが好きなので。だから登録する気もなかったんですが、散々歌われているのにお金はもらえない。『ならば俺が出向こうではないか!』みたいな感じでした。ニコ生に出たときに(※)「いい加減デPもカラオケに登録してよ」みたいなファンの声があったので」

https://web.archive.org/web/20110222084342/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110214/1034478/?P=5

「ニコ生に出たとき」というのは、2010/4/25と2010/7/30の2つの生放送のことです。
当時デッドボールPさんが自身のホームページで公開したまとめには以下の一文があります。

2010年9月19日現在、カラオケJoysoundから配信されているボーカロイド
曲の大半には対価が支払われていません。Joysound側の言い分としては
「JASRACに登録していない曲が流行ることを想定していなかったため個別
に対価を支払うシステムが無い」ということらしいです。
僕は無償で曲をカラオケに提供することに抵抗があったので、JASRACに
曲の権利の一部を信託することにしました

https://web.archive.org/web/20101022054619/http://takepod.accela.jp/contents/permit.html

「カラオケは嫌いだが、ファンから求められていることを知った。現状、カラオケに楽曲を提供しているボカロPはお金をもらえていない。それならば自分が先駆けてやってやろう」という感じでしょうか?
カラオケに無償で楽曲を提供することに内心抵抗があった方は他にもいたでしょうが、明言するほどだったのは、カラオケが嫌いであった事情があったと思います。

このような方がカラオケの歴史を変えることに一役買ったとは、意外かもしれません。

実は私もカラオケが嫌いなんです。(デッドボールPさんとは似て非なる理由ですが)
個人的に共感したところがあったので特筆させていただきました。

ちなみに楽曲の歌詞の内容からご存じの方も多いかもしれませんが、デッドボールPさんは破天荒で下ネタ好きな方です。
そのようなキャラクターとして知られていたので、第一陣として切り込むことができたのかもしれません。

ミクFES'09(夏) 2009/08/31

颯爽と金髪美女(縞水着)と一緒に登場したデッドボールPは、何を間違えたかしまぱん風水着一丁で曲を紹介しつつ自分の持ち時間である約30分間パフォーマンス(乱舞)を行った。あまりの出来事に現場とニコニコ生放送は騒然とし運営も曲紹介を忘れる程。最後に、穿いていたしまぱんを脱ぎ捨て、観客の一部が逃げ惑ったにプレゼントしたようだ。 ちなみに「モッコリ」の正体はネギを模した小物だったようでしまぱんと一緒に観客席に投げていた。ファンサービスも忘れない。

もちろん、しまぱんの下にもう一枚穿いていたのでセーフ? いいえ、デッドボールです。

デッドボールPとは (デッドボールピーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

化け物やん

さらに特筆すると、デッドボールPさんはゲーム会社である日本ファルコムの元社員です。
主に空の軌跡シリーズとイース・オリジンの楽曲を手がけました。
このようなキャラクターでありつつも実はプロ出身で、正しい権利の知識もあったと推察できます。

学生時代はインディーズレーベルで活動しており、過去に嫌な経験をしたことも奮闘した理由として挙げられています。

デッドボールPがこのような枠組み作りに積極的に取り組んだのは、学生時代に活動していたインディーズレーベルで自分の楽曲を他人名義にされたり、二束三文で買い取られたりといった経験を繰り返したことから、「アマチュアであっても権利はしっかり守るべきだ」という意識が強かったことがあるという[16]

デッドボールP - Wikipedia

漢やん

インタラクティブ配信を外さなければ、インターネット上での利用は自由にできません。
たったこれだけのことができなかったから今まで苦労をしたわけです。

結果的に、デッドボールPさんはインタラクティブ配信を外した上でJASRACへの信託に成功しました。
"理論上は"可能であった音楽出版社との個別の交渉に成功したのです。

デッドボールPさんが確立した信託方法は、大きなモデルケースになりました。
この後、クリプトンやエクシングが部分信託に対応することになります。
あとは他のボカロPが信託する流れを作るだけです。

――今回は部分信託で「インタラクティブ配信」を外したわけですけど、この先テレビやラジオが衰退して、ネットに音楽メディアの主流が移れば、いずれネットからも著作権使用料を、という流れになると思うんです。

デP:「そこはクリエーターの選択だと思いますね。そういう何かが出たときに考えればいいかなと思います。今はまだJASRACに信託したというだけで『じゃあ鼻歌歌うだけでダメなんだ』と誤解で言われてしまうわけです。そういうのを少しでも減らすために、インタラクティブ配信は登録していないわけで。それが以前よりも少し良くなったのは、登録できる環境になった、ということですね」

――じゃあ、結局はJASRACのイメージ次第なんでしょうか?

デP:「それもありますけど、JASRACが悪いんじゃないです。日本人はお金を儲けようとするのを嫌う。そういう価値観がある限りダメなのかなと思いますね。初音ミクの初期の頃は、同人CDを出すというだけで『金儲け乙(乙はお疲れ様の意。金儲けを揶揄したネットスラング)』みたいなことが言われた。今はそんなこと誰も言わないし、むしろCDで出してほしいという話にはなりますけど

https://web.archive.org/web/20110222084342/http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110214/1034478/?P=5

この状況でデッドボールPさんに続いたボカロPがいました。
2010年12月6日、40mPさんがJASRACに部分信託を行った旨をブログで発表します。

突然ですが、ちょっと大事なお知らせです!

この度、40mPとして発表しているボカロ楽曲の著作権管理を
JASRACに部分信託することが決まりました。

これについて詳しく説明いたします。
まずこれまでの状況から簡単に。

40メートル走 【12/7追記】JASRAC部分信託について

上記ブログの記事で、デッドボールPさんについても言及しています。
この流れは反響を呼び、メディアサイトでも言及されたほどです。

 まずデッドボールP、そして40mPという二人の作曲家はCDレーベル・クエイクと音楽出版契約をして、JASRACに部分信託したことを表明。JOYSOUNDを運営するエクシングは、子会社で音楽出版社のエクシング・ミュージックエンタテイメント社内に「第二事業部」を設け、11月末から出版社として部分信託の事業を開始したことを発表した。ほぼ同時期に、初音ミク発売元のクリプトンも出版事業への参入を表明している。

ASCII.jp:「作家が主役」の時代――JASRAC・部分信託で何が変わる? (1/6)

デッドボールPさんと40mPさんが信託した音楽出版社は、クエイク株式会社です。
この会社は後にエグジットチューンズ株式会社という名前になります。

そう、あの「EXIT TUNES」です。ボカロが好きならご存じの方も多いのではありませんか?
アーティスト一覧を見ればそれも納得です。
※所属アーティストという表記になっていますが、正確には権利を預けているアーティスト一覧です

エクシングが公開した当時のPDF(アーカイブ)には、2010年12月6日時点でエクシングを通してJASRACに部分信託を行ったボカロPが記載されています。

作詞家

  • オワタP
  • 死亡フラグ集大全
  • Re:nG
  • yuki
  • このは
  • 蒼桐大紀
  • エラ
  • 囚人P
  • monaca:factory
  • 蝶々P
  • 家の裏でマンボウが死んでるP

作曲家

  • オワタP
  • ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト ※
  • Re:nG
  • 囚人P
  • monaca:factory
  • 蝶々P
  • 家の裏でマンボウが死んでるP

※あのモーツァルトです。オワタPさんの楽曲に「トルコ行進曲」のアレンジが使われたため。一瞬誰だよと思って条件反射でググった

エクシングの担当者が、この3年間を振り返ったコメントをしています。

―― では、最終的に「部分信託で行ける」という判断になった理由は何でしょう?

小林 この夏くらいに、「JASRACを使って作家さんが権利を守ってもいいんじゃないの?」という温度感が出てきたなと。じゃあもう一度検討してもいいのではないか。その方向で動き始めたのが9月くらいですかね。その後、作家さんにヒアリングをさせていただいのですが、3年前に比べると格段に変わっているという印象も持ちました。

―― それは信託するメリットの方が理解されたということですか?

安井 カラオケに関わる著作権周りへの誤解があったんじゃないかなと思いますね。我々がニコ生の番組に呼んでいただいた際に、その辺を真剣に考えましょうということでしたので、ならばメーカーとして(著作者やユーザーに)説明できる場所があれば参加しましょうと。そこがきっかけになったかもしれません。

―― つまりそれまで逡巡してきたのは、「雰囲気の問題」ということですか。

小林 そこに帰着してしまうかもしれませんが、これまでに利用者も権利者も権利についての理解が深まったというのは大きいと思います。

ASCII.jp:「作家が主役」の時代――JASRAC・部分信託で何が変わる? (3/6)

エクシングを通して部分信託を行ったRe:nGさんもコメントしています。
また同時にエクシング側の事情も明かされています。

―― 今までJASRACへの信託をしなかった理由は何ですか?

Re:nG JASRACへの直接信託を考えたんですけど、すると自分の楽曲すべてが信託されることになる。僕は別名義でやっているものもあるので、そちらは無信託のままでやりたい。すると出版を選ぶしかないんですが、今度は部分信託が難しいという状況でしたね。

―― 音楽出版社として今まで部分信託をやらなかった理由は何ですか? 小林さんから、作家のJASRACに対する嫌悪感から逡巡していた、という話は伺っています。

小林 まず、「どれくらいの権利者さんとお取引をして、どれくらい楽曲が使われたら、運営に必要なコストをねん出できるだろう?」という部分が分からなかったのが、なかなか踏み出せなかったところですね。全信託と部分信託では、別々に会計業務が発生しますので、そこを含めてどうだろう、ということを検討していました。

Re:nG それがボカロ曲が上位のランキングに入るようになったことで「これはひょっとして部分信託でも立ち行くんじゃないか?」という状況になったのが大きいと思いますね。

ASCII.jp:「作家が主役」の時代――JASRAC・部分信託で何が変わる? (5/6)

初めに紹介したカラオケランキングを覚えていますか?
ランキング上位10位に、5曲のボカロ曲が入っている表です。
この事実がエクシングを決心させました。

業界を横断した者たちとボカロPたちの尽力によって、音楽業界とインターネットが変わったのです。

そしてこの後、ボカロPはJASRACに楽曲の信託を始めるようになります。
「個人の考えによって信託方法を選べるように」なりました。

ちなみに、JASRAC以外にも著作権の管理事業者は存在します。
2016年まではJRCとイーライセンスという法人があり、これらに信託するボカロPもいました。
JASRACの理念に共感できない、リスナーに嫌われたくないなど、理由は様々だったでしょう。
ただしこの2社はそもそもカラオケに対応していない、という事情がありました。
※JASRACとは異なり、当時は音楽出版社を通さない個人での契約も不可能でした

なおJASRACしかカラオケに対応していないのは、これまた根深い事情があります。

JRCとイーライセンスは2016年に合併統合し、NexToneになりました。
NexToneは現在もカラオケに対応していません。

2023年現在でも信託を行わないアーティストはいます。
一部をNexToneに信託しつつ、カラオケ関連の権利のみJASRACに信託し、残りは個人で管理するという選択をするアーティストもいます。

実は2011年6月8日、YAMAHAも音楽出版関連の事業に手を入れています。
エクシング、クリプトン、ドワンゴの3社が部分信託に対応した後のことです。
ビープラッツ株式会社への業務委託という形で、部分信託による収益化を支援する企業を設立しました。

 VOCALOIDで作成した楽曲などの利用開発と著作権管理を行う企業「自主制作コンテンツ出版管理機構」(VOCALOID MUSIC PUBLISHING:VMP)が、6月8日から活動を開始した。VOCALOID関連ECサイトを運営するビープラッツがヤマハの委託を受けて設立。VOCALOID楽曲などの制作者がコンテンツ利用への適切な対価を得られる仕組みを構築し、クリエイターを支援する。

ボカロ曲の著作権管理会社、ヤマハの委託で設立 収益化を支援 - ITmedia NEWS

YAMAHAの委託で設立されたこの企業は、音楽出版社ではありません。
中間の支援組織で、2015年に事業を終了しています。

これは部分信託が一般的になり、役目を終えたからと思われます。
音楽出版社と直接契約を行うボカロPが増えたことで中間の支援組織の需要がなくなり、事業終了の運びになったのではないかと推察します。
部分信託が手の届く範囲に来たということで、ボカロPにとっては前向きにとらえてよいでしょう。

音楽をどのように聴いてもらいたいか?
考え方は様々です。
その考えを反映できるのは、この出来事があったからです。

初音ミクJASRAC登録事件から約3年後。
事件が知らしめた問題を解決し、MIDI狩りから続いた約9年間のわだかまりも解消しました。

JASRACは時に高圧的な姿勢を取ることから、現代でもJASRACに嫌悪感を抱く者はいます。
音楽関係者やリスナー、インターネットユーザーなど立場は様々です。
しかし、インターネット上のJASRACに対するイメージは間違いなく和らいだでしょう。

もうお分かりだと思いますが、この出来事はボカロPに限らず、すべての音楽家に影響があります。
東方アレンジなどの同人音楽家にとっても、メジャーなアーティストにとってもそうです。
音楽業界の歴史が動いた瞬間であり、ボカロの商業進出の第一歩です。

かつてVOCALOIDを冷ややかな目で見ていたプロと、プロを拒否したボカロ文化。
ここで両者の架け橋ができました。
完全な異文化であった2つが交差するきっかけはカラオケだったのです。

商業進出の前触れ

3年という月日は長く、実はその3年間で少しずつ商業進出が進んでいました。

2009年7月2日にSEGAから発売された「初音ミク -Project DIVA-」というPSP用の音楽ゲームです。
収録楽曲は有志のWikiにまとまっています。

32+14の本体収録曲と9+18の追加購入パックで合計73曲、本体収録曲の「荒野と森と魔法の歌」と「いのちの歌」はリンレン個別バージョンもあるので、合わせて合計77曲というボリュームです。
その全てがボカロ曲という、当時は画期的なゲームソフトでした。

このゲームは発売初週に10万本以上売り上げ、PSPゲームソフトの売上1位を記録しました。

『1st』の発売後は1週間で10.1万本を売り上げ、メディアクリエイト調べの全国ゲームソフト販売ランキングにおいて週間2位(PSP用ソフトとしては週間1位)を記録した[18]。セガによるアンケートの集計結果では、ニコニコ動画や公式サイトで本作を知ったという回答が多数を占めたといい、インターネット上の盛り上がりを追い風にできたことが大きな反響に繋がったと考えられている[13]

初音ミク -Project DIVA- - Wikipedia

後にProject DIVAシリーズとしてブランドを確立し、クリプトンとSEGAの関係が強くなります。
これが後のmaimaiやプロセカのような音楽ゲームに繋がり、そして音楽ゲーム市場の商戦に巻き込まれることになります。

ボカロP自身の商業進出も進みます。
2008年8月27日、kzさんはメジャーアルバムとして「Re:package」をリリースします。
同人アルバムとして頒布したCDの人気があまりに高く、生産が追い付かなかったため、ビクターエンタテインメント社よりメジャーアルバムでリリースすることになったものです。

「Packaged」は発売当時ネットで70万回以上再生された実績を持っていた[1]。同人盤はコミックマーケット73[2]及びとらのあなで販売されたが、瞬く間に完売し[3]生産が追いつかなかったため、新たに新曲や未発表曲などを追加した商業流通盤がメジャーレーベルから販売された。

Re:package - Wikipedia

このメジャーアルバムは高い注目を浴びます。
日本国内でリリースされたCDの売上を記録するオリコンチャートで、初登場5位を記録する勢いでした。

 動画投稿サイトなどで話題を呼んでいる“VOCALOID2”という音声合成技術を採用したソフトの代表格『初音ミク』を大々的にフィーチャリングしたlivetune feat.初音ミクのアルバム『Re:Package』が発売1週目で2.0万枚を売上げ、9/8付週間アルバムランキングの5位に初登場した。

『初音ミク』をフィーチャリングしたアルバムがTOP10入り | ORICON NEWS

kzさんは、歴史上で初めてメジャーデビューを果たしたボカロPと言われています。

同じ頃、Webブラウザ界隈で苛烈なシェア争いをした「Google Chrome」というブラウザがあります。
2011年12月16日、まだシェアが3位の頃、kzさんの「Tell Your World」がテレビCMソングに採用されました。
なお、kzさんはこの時期にlivetuneとして活動を開始します。

当時放映されたテレビCM。今見てもエモいので埋め込みにします

これは大きな話題を呼びました。
後にGoogle Chromeはシェア1位を獲得し、kzさんは2023年現在も活躍するアーティストになります。

2009年3月4日、ryo (supercell)さんもソニー・ミュージックエンタテインメント社よりメジャーアルバムをリリースします。
CDをリリースするまでの経緯が、当時のご本人のブログ(現在はアクセス不可)に綴られています。

真面目な話ですが、ここに至るまで紆余曲折、大変でした。
一般流通の方々って初音ミクという名前はかろうじて知っているくらいで、ボカロが好きだ、文化が好きだ、ニコ厨w、ミクかわいい!そういう方はほとんどいらっしゃらなくて。
実際そうなんだろうなとは思ってはいたものの、そういうの目の当たりにすると
なんだか違うな、とおこがましくも思ったり。
そんな中、知らないながらにも理解しよう、尊重しよう、そう言ってくれる方に出会えました。
それが今回アルバム出すのを担当してくれている方です。

例えばジャスラック登録はしません、
これひとつ取ってもレーベルにとっては結構ハードルが高くて。

ただ、やはりそこを乗り越えられたのもまた担当の方の尽力によるものでした。
その他にも一般流通に出すならこれはやらせてもらいたい、という希望のひとつであった音源の再ミックス、これもちゃんとやらせてもらえる事になりました。
うちのミクの晴れ舞台、それは出来る限りのおめかしをしてあげるのが務めというもの。
リクエストさせて頂いた方でスケジュールの合った方に今からやってもらえる予定です。

https://web.archive.org/web/20081227075758/http://www.supercell.sc/archives/2008/12/supercell-2.html

まだカラオケなどの問題が解決する前の話です。
JASRACに信託できないことによるメジャーデビューのハードルが高かったことが伺えます。

ryoさんは、メルトショックを引き起こした楽曲「メルト」のボカロPです。
後にsupercellとして、2009年に放送されたアニメ「化物語」の主題歌「君の知らない物語」を制作したことなどが挙げられます。
2022年に放送された「機動戦士ガンダム 水星の魔女」1期でも主題歌を書いており、2023年現在も活躍するアーティストです。

ボカロを題材としたゲームソフトの大ヒットやボカロPのメジャーデビューなどが続き、JASRACが何度も最前線に立って説明したことから、商業に対する嫌悪感も徐々に薄れていきます。
その上の「第一歩」でした。

同人音楽を取り込むことに成功したJOYSOUNDは、ライバルのDAMに対し、この分野で一歩リードしました。
2010年10月頃からDAMでもVOCALOID楽曲を扱い始めるようになります。
当時、DAMで配信を開始したボカロ曲一覧はこちら(アーカイブ)

商戦に巻き込まれるその姿は、これまでのVOCALOIDとは一味違います。
ニコニコ動画内に留まってきたVOCALOIDが現実世界に登場した瞬間です。

ここから先は、商業進出を果たしたボカロがどのような変遷を辿るかを見ていきましょう。
実はそれも順風満帆とは行かないのですが、これほど大きな問題は起こりませんのでご安心ください。

この頃、インターネットに変化が起こり始めます。
偶然か必然か、変化が起きたのはボカロだけではありませんでした。

それまでは誰もが想像できなかった、とてつもなく大きな流れが訪れようとしていました。
スマートフォンの普及によるインターネット人口の急増。
そして「同人の商業進出時代」の始まりです。

※続きは現在執筆中です。しばらくお待ちください。ちゃんと調べるので時間が掛かると思います。
 意見や感想があれば呟いてください。(ついでに興味があれば@kaede_hrcのフォローお願いします)

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